4月26日、新宿にあるテーマパーク「東京ミステリーサーカス」にて、『シン・ゴジラからの脱出』公演がスタートした。2016年の大ヒット映画『シン・ゴジラ』とリアル脱出ゲームのコラボレーションである本公演は、「東京ミステリーサーカス」限定という“スペシャル”なものとなっている。
今回は、そんな『シン・ゴジラからの脱出』を手掛けた熊崎真敬プロデューサーと染川央ディレクターを直撃。ゴジラ愛にあふれる2人が語った本公演の制作秘話から制作にかける想い、そして、「これまでのリアル脱出ゲームを少しでも壊そうした」という発言の真意とはーー?
ーーまず、『シン・ゴジラからの脱出』開催の経緯について、お教えください。
熊崎真敬プロデューサー(以下、熊崎P) 2017年12月9日に、SCRAPの新しい施設「東京ミステリーサーカス」をオープンした時点で、社内で「なにか、東京ミステリーサーカスのある新宿ならではの公演ができないか?」という話をしていました。そんな時、コンテンツチームが行っていた“新しいものを考える”合宿の中で、ゴジラという案が出てきていたんです。
僕としては、やはりゴジラというのは、戦後である1954年から今に至るまでのエンターテインメントを作ってきたアイコンだと思っています。今、新宿東宝ビルにはゴジラヘッドもあるし、SCRAPはまだゴジラとコラボをしたことがない。「これはもうゴジラ×リアル脱出ゲームをやるしかない」ということで、SCRAP代表の加藤(隆生)や弊社の上層部が東宝さんとお話をさせていただきました。それで東宝さんにプランを持っていくにあたって、染川がディレクターに選ばれました。
染川央ディレクター(以下、染川D) 今、熊崎が言ったコンテンツチームの合宿に僕も参加していたんですけど、その時、僕は「ゴジラ」のアイディアを出せなかったんです。というのも、ゴジラが好き過ぎて、逆に触れられないというか……。だから、東京ミステリーサーカスの総支配人・きださおりからゴジラというアイディアが出た時には、「なぜ、僕がそれを思いつけなかったんだ!」ってちょっとヘコみました(苦笑)。
その後、東宝さんとの話が進む中で、コンテンツチームの会議で、加藤が「『シン・ゴジラ』とコラボする可能性が高いんだけど、誰か『ゴジラ』に興味のある人、いる?」と聞いたんです。その時に数人が手を挙げたんですけど、僕は手を挙げませんでした。でも、加藤は僕が「ゴジラ」好きというのを知っていたので、「あれ? 染くん(染川Dの愛称)、ゴジラ好きだよね?」と言ったんです。それで、僕は「ゴジラに“興味がある”とかじゃないです。自分はゴジラを愛してます!」と。そうしたら、加藤が「ごめん、聞き方が悪かった。ゴジラを愛してる人、手を挙げてもらっていい?」と聞き直して、コンテンツチームで僕だけが手を挙げたという形になりました。
ゴジラ愛が前に出ちゃって、ちょっと加藤をハメた感じになったんですけど(笑)。
熊崎P それでいうと、僕はもともとリアル脱出ゲームの運営チームにいたんですが、2年前に新規事業開発部へ異動して、今はリアル脱出ゲームを作るチームから離れています。ただ、「染川がゴジラのリアル脱出ゲームを作る」と聞いた時、「彼のゴジラ愛を受け止められるプロデューサーは、SCRAPで僕しかいない!」と瞬間的に思ったんです。それで、役員に直談判して、『シン・ゴジラからの脱出』プロデューサーをやらせてもらえるようにしました。そうやってゴジラ愛に溢れたチームが完成して、東京ミステリーサーカスで実現する形となったんです。
ーー熱意がスゴい……! 先ほどおっしゃったように、『シン・ゴジラからの脱出』は「ゴジラが新宿に襲来」という設定になっています。そもそも、東京ミステリーサーカスが前提としてあったのですね。
熊崎P 『シン・ゴジラからの脱出』は、東京ミステリーサーカスが新宿の歌舞伎町にある、という利点を最大限に活かしています。東京ミステリーサーカスは公演帰りにゴジラヘッドを見て、「私たち、あのゴジラと戦ったんだ」と思えるすごい場所なんです。そういった僕らの立地が大事だな、と思いました。
この感覚はほかの都市でやったとしても感じることはできないので、『シン・ゴジラからの脱出』は東京ミステリーサーカス限定公演にしています。今のところ全国ツアーをする、という計画はありません。
ーー重箱の隅をつつくようで恐縮なんですが、映画『シン・ゴジラ』だとゴジラは新宿を通りませんよね?
熊崎P それに関しては、16年の『第67回NHK紅白歌合戦』でゴジラがNHKホールを襲来していたり、17年にはUSJで「ゴジラ ザ・リアル 4-D」が行われていたりするので、問題ありませんでした(笑)。ただ、あまりにめちゃくちゃなことは出来ないので、ゴジラが上陸してから歩いていくルートはすごく考えましたね。
染川D 実際に大きな地図を作って、時速15km程度で歩くゴジラが上陸して、(リアル脱出ゲームの制限時間である)60分でどのくらいの距離を進めるのか? というルートを作って、東宝さんに確認を取っています。だから、「ゴジラの設定がおかしい」ということもないと思います。
『シン・ゴジラ』の魅力をリアル脱出ゲームにする時の苦悩とは?
ーーそういったこだわりからも、ゴジラ愛が伝わってきます。お二人が考える『シン・ゴジラ』や「ゴジラ」シリーズの魅力とは?
熊崎P 映画『シン・ゴジラ』は16年に爆発的にヒットした作品ですが、「なぜ、今『シン・ゴジラ』とコラボするのか?」というのは、いろいろな人からよく聞かれます。ただ、『シン・ゴジラ』を観た時の衝撃は、2年たった今でもまだ冷めやらない気がしているんです。僕らは2人とも何度も劇場に足を運んで『シン・ゴジラ』を観て、「僕らは小さい頃から観ていたゴジラが好きなんだ」というのを、改めて感じました。
今、僕らは30歳前後なのでリアルタイムでは触れていませんが、1954年の初代『ゴジラ』で描かれていた“何かわからなすぎる巨大な脅威=ゴジラ”といった感じも、『シン・ゴジラ』にはありました。そういった脅威に対して「人間がどうするべきか」という人間観察的な要素だったりと、『シン・ゴジラ』は僕らがゴジラ映画に求めているものが全部詰まっていたんです。だから、何回観ても楽しいし、新しい発見がある。あと、単純に「なんて面白い映画を作ってくれたんだ」とも思いました。
染川D 僕は、初めて観た映画が『ゴジラVSキングギドラ』ということもあって、平成「ゴジラ」シリーズが大好きでした。そこから、過去に遡って「ゴジラ」シリーズも観ていました。平成「ゴジラ」シリーズには「Gフォース」といった架空の組織や兵器が登場してドンパチやり合っていて、それも魅力的だったんですが、『シン・ゴジラ』には一切出てきません。『シン・ゴジラ』では、ゴジラという非日常的な存在、脅威が僕らのいる日常をめちゃくちゃにします。そこで起こる葛藤といった人間ドラマや政治的なドラマが、すごく魅力的でしたね。
僕らが作っているリアル脱出ゲームも、“非日常的な体験をする”というエンターテインメントです。そういった意味で、作り終えてみると『シン・ゴジラ』とリアル脱出ゲームはすごく相性が良いな、と感じました。……作るのはすごく難しかったんですけど(苦笑)。
ーー今おっしゃった『シン・ゴジラ』の魅力を『シン・ゴジラからの脱出』というゲームに落とし込む際、どういった部分で苦労されたのでしょうか?
熊崎P 僕の中で、『シン・ゴジラからの脱出』は「“本当にゴジラがやってくる感”を出したい」というイメージだけはありました。『シン・ゴジラ』を観たら、「こういう誰も避けられない大きな災害が来た時に、自分ならどう行動するか?」というのを、みんな絶対に考えると思うんです。そういった、日常の延長線上にある非日常がドンと伝わってくるゲームにできたらいいな、と考えていました。だから、今回は公演中の映像も、ゴジラがやってくる角度を踏まえてロケ撮影をしたりと、リアリティを出すためにがんばりましたね。
ただ、「どうすれば『シン・ゴジラ』という作品を、ゲームとして成立させるのか」というのは正直、キレイには見えてなかったです。お客さんはあくまでエンターテインメントとして遊びに来てくれるので、あまりにシリアス過ぎても違う。そのバランスは難しかったです。
染川D 僕も、最初は見えてなかったですね(苦笑)。だから、『シン・ゴジラからの脱出』は何回も作り直しました。
ーー例えば、どういったボツ案があったのですか?
染川D 「ゴジラにどう対処するのか?」という部分をゲームに落とし込むには、プレイヤーを自衛隊側にするのが一番作りやすいんです。60分の中で、兵器を配備しながらゴジラと戦うという形は作りやすかったんですけど、それだと『シン・ゴジラ』ではないな、と。
『シン・ゴジラ』の魅力のひとつに、「巨災対」という、組織の一匹狼や鼻つまみ者たちの集団が連携し合って、ゴジラを凍結させていくというドラマがあります。だから、やはり巨災対という組織を軸としたゲームを作らなければいけない、と思ったんです。それでも巨災対の力だけでゴジラを止めることは不可能で、ときには総理に頭を下げてもらったりして、外国や政府とも協力し合わないといけない。そういったシーンが、『シン・ゴジラ』の一番の魅力だと思うんです。なので、その魅力をどう上手くリアル脱出ゲームの中に組み込むのか、というところには頭を悩ませました。
熊崎P ボツ案としては、「謎解きが進むにつれて、事態が変化して新たな設定が追加される」というスタイルもありましたね。でも、それは加藤から「毎回、世界のルールや設定が変わってきてしまうと、プレイヤー側はわからなくなってしまう」と言われ、僕らもその言葉に納得をしたのでボツにしました。
ほかにも、「官僚を体験するゲーム」だった時期もあります。各省庁の窓口が並んでいて、その窓口に書類を渡して謎解きを進めていくんですけど、「じゃあ、その窓口が集まっている場所ってどんな場所なの?」という話になって……。
染川D ゲームの中の設定がしっかりとしていないと、世界観がブレてしまうんですよ。
リアル脱出ゲームは5人くらいのチームで作っていくのですが、会議の中で出たアイディアも、僕が「これはちょっとゴジラっぽくない」という理由で却下したりしてます(苦笑)。「リアル脱出ゲームだから、どうしてもパズル要素は必要になります」と言われても、「パズルをパズルとして出すのはちょっと……。なにか『シン・ゴジラ』という世界の中で、上手く見立てられないかな」と返したりして。
「この謎は、この世界のどこからやってきたものなのか?」ということは、ゲームの中でも明確にしておかないといけないんです。その部分を固めるのには、すごく気を使いました。
ーーそれこそ、ゴジラ自身が謎を出すわけではないですし。
2人 そうなんですよ!
染川D 例えば、“犯人がいる”という設定だったら、「犯人の残した暗号や爆弾を解除する」というゲームになって、設定も飲み込みやすいし、対立構造もわかりやすい。でも、ゴジラはただ東京を破壊しながら前進しているだけなんです。ゴジラ自体が悪、ということでもなく、我々はただゴジラに翻弄され、雨風をしのぐように対処するしかない。
熊崎P それでも、お客さんは『シン・ゴジラからの脱出』と聞いた段階で、「ゴジラという脅威に立ち向かうゲーム」ということがすぐにわかる。そこに関しては、ゴジラとリアル脱出ゲームは本当に相性が良かったと思います。ただ、構造としてはすごく見えやすいんだけど、ゲームとして作るにはすごく難しい。そこが、染川が必死に悩んだところです。
ーーいかに参加者に『シン・ゴジラ』の世界の中に入ってもらって、謎を解かせるのか。そこに腐心した、ということですね。
染川D ほかにも、リアル脱出ゲームではオープニングとエンディングに司会が出てくることも多いのですが、僕はそこにも違和感を覚えていました。やっぱり、舞台上で進行する役割を持つ司会も、物語の中の人物であってほしい。だから、『シン・ゴジラからの脱出』では、物語に出てくる人物が司会の役割を果たしながら、ドラマを作るようにしています。
今までのリアル脱出ゲームは、「謎さえ面白ければ、司会がいても盛り上がる」という形でした。でも、これからのリアル脱出ゲームでは謎に加えて、非日常的な体験をしてもらうためにより没入感を高める舞台演出が重要な柱になってくると思います。そういった意味で、今回の『シン・ゴジラからの脱出』は今、僕らにできるリアル脱出ゲームの集大成に近いものがあります。
あの名シーンの再現も……!? 『シン・ゴジラからの脱出』をより楽しむためのポイント
ーー『シン・ゴジラからの脱出』では、作品の世界に入ってもらうためのギミックも用意されています。ネタバレにならない範囲でお教えいただけますか?
染川D リアル脱出ゲームでは、最初にチームの人と自己紹介し合うと思うんですが、今回は名刺を用意しました。『シン・ゴジラ』リスペクトの“ごっこ遊び”として、まずチームメンバーと名刺交換をしていただいて、仲を深めていただければな、と。
あと、ゲーム中で“水の入ったペットボトル”が出て来る、とだけ言っておきます(笑)。
ーー『シン・ゴジラ』ファンとしては、期待が膨らみますね(笑)。
染川D ほかにも、マニアックなものからわかりやすいネタまで、ゴジラファンが見たらニヤっとできるものを散りばめていて、最後の最後まで『シン・ゴジラ』の世界に入ってもらうための工夫をしています。
熊崎P 『シン・ゴジラからの脱出』のために、映画『シン・ゴジラ』を見てきてくれる方もいると思うので、あの作品の“情報量のすごさ”という衝撃や楽しさへの期待にもこたえられるものにしたい、と考えています。リアル脱出ゲームなので絶対にダメなんですけど、二回目も来てもらえたら、そういった小ネタも存分に楽しめるだろうな、って思うんですけどね(笑)。
ーー『シン・ゴジラからの脱出』に参加するにあたって、事前に映画『シン・ゴジラ』を観ればより楽しめるのはもちろんだと思いますが、さらに本公演を楽しむためのポイントはありますか?
熊崎P コスプレはガンガンしてきてもらいたいですね。なぜなら、スーツやつなぎなど、大体みんなが持っているもので衣装は揃うので(笑)。
染川D 仕事帰りにスーツで東京ミステリーサーカスに寄っていただいて、そのまま『シン・ゴジラ』の世界に入っても、まったく違和感がない。こんなにコスプレしやすいのは、リアル脱出ゲーム史上初じゃないですかね(笑)。
熊崎P 僕の個人的なオススメとしては、あえて普段リアル脱出ゲームに誘わない人を誘ってみてほしいです。今回の主人公(プレイヤー)は「巨災対」という官僚たちで、その中で名刺交換や挨拶をしたりします。その時に「自分の職場ではこんな風に挨拶します」とか、それぞれの職場の文化の違いが出て来ると思うんです。そうやって自分の職業に照らし合わせて楽しめるゲームになっていると思います。なので、「普段はそんなに謎解きで遊ばないけど『ゴジラ』は好き」という人も、ぜひ誘ってみていただければ、と。
ーー最後に、『シン・ゴジラからの脱出』を心待ちにしている読者へのメッセージをお願いします。
熊崎P この『シン・ゴジラからの脱出』で、僕らは“リアル脱出ゲームの新しい次元”というか、これまでのリアル脱出ゲームが持っているイメージを少しでも壊そうとがんばっています。
なので、すでにリアル脱出ゲームを楽しんでくださっている方は、ぜひそれを目撃しに来てほしいです。また、これまでリアル脱出ゲームを遊んだことがない方も、新しいエンターテインメントとして『シン・ゴジラからの脱出』に挑戦してみてください。みなさん、楽しむポイントはそれぞれ違うと思うので、「自分が『シン・ゴジラ』の世界の中で、どんなことをしたいか?」という妄想を膨らませながら遊びに来ていただければ、それぞれの楽しみ方ができるはずです。もちろん、あまり深く考えず気軽に来ていただいても楽しめるゲームになっています。
ぜひ「今、リアル脱出ゲームはここまで来ているのか!」というのを目撃しに、『シン・ゴジラからの脱出』へお越しください!
染川D 小さい頃に初めて『ゴジラVSキングギドラ』を観て以来、ビデオテープが擦り切れるまで「ゴジラ」シリーズを観て、その面白さや怪獣への憧れに目覚めました。そうやって、自分はずっとゴジラ映画とともに育ってきた、と思っています。そして、2016年に公開された『シン・ゴジラ』には「ゴジラはまだこんなに面白いのか!」という発見があって、ものすごく打ちのめされました。
一方で、「リアル脱出ゲーム」というエンターテインメントとの出会いも、自分の人生を大きく変える転機になっています。「自分もこういったエンターテインメントが作りたい」と思って、SCRAPで謎解きイベントをずっと作ってきました。
そんな『シン・ゴジラ』と「リアル脱出ゲーム」という、自分の人生を変えた作品の初コラボをメインディレクターとして担当させていただけたのはものすごく光栄で、めちゃくちゃ嬉しいです。
だからこそ、『シン・ゴジラからの脱出』は「今、自分が作れる最高のものを作りたい」という気持ちで、この半年間、駆け抜けてきました。実際に体験していただければ、リアル脱出ゲームとしても新しい試みをしていることがわかっていただけると思います。リアル脱出ゲームが好きな人も、ゴジラを観て育ってきた人にも遊んでもらって、「こんなに面白いエンターテインメントがあるんだ」と両者の価値観を更新できるような作品にしたつもりです。今、自分が作れる一番面白いエンターテインメントをぜひ体験していただければ、と思います。
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