リアル脱出ゲームを深く知る10人の関係者vol.1〜おばけ屋敷プロデューサー五味弘文
リアル脱出ゲームが大きくなるきっかけを作ったのは、おばけ屋敷プロデューサーだった!?
#10周年 #リアル脱出ゲーム #五味弘文 #関係者インタビュー
公開日:2017/02/06
リアル脱出ゲームは今年10周年! 京都の小さなギャラリーでひっそりと始まったこの新しいエンターテイメントも、全国に店舗ができるわ、ドームツアーはやるわ、海外展開するわと、だいぶ大きくなりました。もちろんそこには、たくさんの支えていただいた方々がたくさんいます。そこで、リアル脱出ゲームを深く知る関係者の方々に話を聞いていこうというのがこの企画。初回は、ホラー系の公演で多大なご協力をいただいている、おばけ屋敷プロデューサーの五味弘文さんです!
「東京ドームでやりたいんだ」って話をいきなりされたんです
──初めてリアル脱出ゲームに触れたのはいつでしたか?
僕が初めてプレイヤーとして体験させてもらったのが2010年の『廃倉庫からの脱出』です。このときには僕の周りで結構話題になっていて、知り合いが行きたいって言うので一緒に行ったんですよ。そのときに初めてSCRAPさんと挨拶をさせてもらいました。その年のうちには加藤(隆生/SCRAP代表)さんや飯田(仁一郎/SCRAP取締役)さんと会って、東京ドームシティ アトラクションズでリアル脱出ゲームをやらないかって提案をしたんです。結局開催には至らなかったんですが、それがきっかけでSCRAPさんとは関係ができました。
リアル脱出ゲームの関東進出第4弾。部屋を2つに分けて文通しながら謎を解くシステムが採用された。
──体験する前はリアル脱出ゲームをどんなものだと思っていましたか?
謎の要素はほとんどなくて本当に閉じ込められて、実際にいろんなことをやって脱出しなくちゃいけないってものかなーって、何となく思っていました。
──最初に体験した印象はどんな感じでしたか?
本当に新しい遊びだなと思いました。『廃倉庫からの脱出』の仕掛けがむちゃくちゃ面白かったんです。今までしたことのない体験をしてるなって思いました。
──SCRAPと一緒に仕事をするようになったのはいつからでしたか?
『あるドームからの脱出(2011年)』です。2010年の夏に飯田さんから電話がかかってきて、東京ドームでやりたいんだって話をいきなりされたんです。突然とんでもない話をするなぁと思いました(笑) 。普通はありえないけど面白い話だったので、僕が一緒に仕事をしていた東京ドームの人を『夜の遊園地からの脱出』に連れて行ったんです。とにかく東京ドームの人に面白いって言わせようと。連れて行ったらやっぱりすごい面白いって話になり、どうやったら開催できるかをその晩に飲み屋で長時間話した覚えがあります。
初の東京ドーム公演は、回を重ねるごとに動員を増やしてきたリアル脱出ゲームの1つの到達点。
──「東京ドーム」と「リアル脱出ゲーム」をつないだのが五味さんだったんですね。コンテンツを一緒に考えることはあったんですか?
ほとんどありませんでした。僕は今も演出はやりますけど、基本的に謎解きを考えることはありません。ただ、そもそも『あるドームからの脱出』では演出にも入っていませんでした。あくまで、どうやってイベントを実現できるようにするのかを調整する役回りでした。
「怖いところを探索する」のと「謎を解いて脱出する」ので脳の働きが違うんです
──その後、五味さんに演出を入れていただいたリアル脱出ゲームは名古屋で開催された『ある廃ビルからの脱出(2011年)』ですよね? 実際に演出してみて、どんな印象でしたか?
前から怖いものとリアル脱出ゲームは相性いいだろうなって漠然と思ってました。でも実際取りかかってみたら、意外と大変だなと感じましたね。「怖いところを探索する」のと「謎を解いて脱出する」のでは、脳の働きが違うんです。その違いをどうやったら乗り越えられるかがものすごく大変で。この点については、次の公演もぜひ挑戦したい課題だなと思いました。
幽霊が出る廃ビルから脱出するゲーム。ホラー演出目白押しで、参加者を恐怖のどん底に突き落とした。
──その突破口はありましたか?
実際に突破口ができたのは、静岡で開催した『おばけトイレの秘密(2012年)』です。そのとき初めて演出が先にあって、それをもとに謎を仕掛けるみたいなやり方をしてみたんです。それで上手く融合できるようになったかなって感じましたね。
ツインメッセ静岡開催の『妖怪おばけ屋敷大博覧会2012』にて出展されたSCRAP制作の謎解きホラーゲーム。
──それを踏まえて『ある廃病院からの脱出(2012年)』では何に気をつけて演出をされましたか?
『廃病院からの脱出』は、それまでのリアル脱出ゲームに比べて、ものすごい部屋がいっぱいあって、お化け屋敷みたいに空間を変えていくことができるので、おばけ屋敷と近いニュアンスを出しやすかったです。そんな中で気をつけたのは、いかに劇的に次の恐怖へ導入をできるかです。扉を開けたら、今までにいた空間とはまた違う新しい空間と恐怖が広がっていて、頭の中を一回ゼロに戻すような、そんな空間を演出できるように心がけました。恐怖に人の脳が慣れようとするのを、どれだけ慣れさせないようにするかが大事なんです。今開催中のリバイバル公演も、もちろんそこにかなり気をつけて演出しています。じっくり時間かけて血のりをつけましたよ(笑)。
『ある廃病院からの脱出』リバイバル公演は、後楽園ヒミツキチにて好評開催中!
──お化け屋敷を演出するのと、リアル脱出ゲームの演出をするときの違いはありますか?
全然違いますよ(笑) 。まるっきり違うんですよね……。お化け屋敷は、いかに恐怖という「情動」を掻き立てるかということを純粋に突き詰めていきます。それに対してリアル脱出ゲームは、脳の働き方がとても理性的なんです。つまり、リアル脱出ゲームと恐怖演出を融合させるためには、フル稼働しながら理性的に考えている脳に、恐怖っていう原始的な情動をどうやって潜り込ませるかが鍵になってきます。そしてそれが本当に大変なことなんです。それを実現するには、リアル脱出ゲームの謎を解けた瞬間の快楽と、恐怖によって感じる快楽がぴったり合う瞬間を作れるかどうかだと思っています。整理がついていない不安定な状態を「謎を解いて理解することで脱出したい」と「恐怖を乗り越えて脱出したい」という2つの動機と行動をシンクロさせないといけない。
SCRAPさんの独特の雰囲気は、昔からそんなに変わってないなと思ってます
──『かくれ鬼の家からの脱出(2015年)』ではお化け屋敷とリアル脱出ゲームの融合ができたように思いますが、そこで苦労した点は何ですか?
6人で動いている参加者のグループをどうやって分断できるかっていうのを常に考えていましたね。人が別れることによって、大丈夫と思っていた状態から、その都度不安な状態が更新されていくので。あえてあげるとすれば、そこが苦労した点ですね。
アジトオブスクラップ浅草で開催している『かくれ鬼からの脱出』が体験できるのは2017年2月26日(日)まで。急ぐべし!
──ネタバレにならない範囲内で、『かくれ鬼の家からの脱出』の一番面白いポイントを教えてください。
かくれ鬼っていうタイトルだから、やっぱり「かくれんぼ」ですよね。その点については完全に演出ありきで、こんな演出やりたいっていうのを先に提案させてもらって、その演出をもとに謎をしかけていくという流れで作りました。
──今までかかわっていだたいた公演の中で一番好きな公演は何ですか?
『かくれ鬼の家からの脱出』ですね。
──かかわってない公演だったら何ですか?
『ある映画館からの脱出(2015年)』です。僕はどうやら物語が好きみたいで。謎解きの仕掛けも全く新しいやり方で「こう来たか」って感じでした。
映画館の中にリアル脱出ゲーム空間を持ち込んだ新機軸の公演。2016年にリバイバル公演も行われた。
──初めてリアル脱出ゲームを体験したときと今とで印象が変わった点ってありますか?
今は本当にいろんなパターンのリアル脱出ゲームができて、ここまでの展開をするとは思っていなかったです。最初のころから考えると、本当に驚きです。当時『あるドームからの脱出』の時点で、ある意味行き切ったかなっていう印象があったんですよ。正直言うと、ドームまでやっちゃったら次どうするの? って思ってました。でも、そこから6、7年で、ここまでリアル脱出ゲームっていう全く新しい遊びを大きく広げてしまうのかと。その貪欲さは見習わないといけないなと思ってます。その反面、SCRAPさんの独特の雰囲気はそんなに変わってないなと思ってます。悪い意味で商業主義的になっていかない (笑)。これだけ組織が大きくなったにもかかわらず、その空気感が共有されているっていうのは不思議ですよね。
──今後のリアル脱出ゲームはどうなっていくと思いますか?
さらにリアル脱出ゲームの範囲が広がっていくのかなぁというイメージはあります。お化け屋敷的なおもしろさが加わってまたおもしろいものができたように、また別のおもしろさが加わってできるものがあるんじゃないかなと思いますね。ちなみに僕はもっと物語性を深く掘るものを作ってもらいたいなーと思ってます。
──あと10年は行けますかね?
行けるんじゃないですか。それはもう、加藤さんの経営手腕で(笑)。
■プロフィール
五味弘文/ごみ・ひろふみ
1957年、長野県生まれ。お化け屋敷プロデューサー。株式会社オフィスバーン代表。1992年に『麿赤児のパノラマ怪奇館』で初めてお化け屋敷のプロデュースを手がけ、現在に至るまで数々のおばけ屋敷の制作している。『かくれ鬼の家からの脱出』など、リアル脱出ゲームの恐怖演出にも多数かかわっている。『人はなぜ恐怖するのか?』(メディアファクトリー)、『お化け屋敷になぜ人は並ぶのかー「恐怖」で集客するビジネスの企画発想』(角川書店)、初のホラー小説『憑き歯ー密七号の家』(幻冬舎文庫)などの著書がある。
※本インタビューは再構成した上でSCRAP出版より2017年6月発売予定の『リアル脱出ゲーム10周年記念本(タイトル未定)』にも掲載します。お楽しみに!
(2017年1月24日収録:インタビュー&構成/熊崎真敬、撮影/佐藤哲郎)