リアル脱出ゲームを深く知る10人の関係者インタビューvol.2 よみうりランド・奥谷祐
全国に波及していった“夜の遊園地でのリアル脱出ゲーム”誕生のキーパーソン
公開日:2017/02/22
リアル脱出ゲーム10周年記念企画として、これまで支えていただいた方々に取材していこうというこの企画。第2回に登場していただくのは、よみうりランド企画・宣伝部の奥谷祐さん。2010年に閉園後のよみうりランドで開催された『夜の遊園地からの脱出』は、キャパシティを一気に広げ、リアル脱出ゲームがブレイクするきっかけとなったイベントです。夜の遊園地を舞台にした大型リアル脱出ゲームは、今ではたびたび全国規模で行われていますが、最初はどのように始まったのでしょうか?
脱出ゲームの世界観でおばけ屋敷をリニューアルしてもらうはずが……
──2010年の『夜の遊園地からの脱出』は、リアル脱出ゲームの転機になったイベントだと思っていまして、今回取材させていただくことになりました。
大変光栄です。私はよみうりランドで9年働いていますが、その中でもかなり印象深いイベントですね。
2010年9月に開催された初代『夜の遊園地からの脱出』のビジュアル。リアル脱出ゲームファンの中でこの公演が初参加だったという人は非常に多い。
──そもそも、SCRAPとイベントを行うことになったきっかけは?
当時、私はおばけ屋敷のリニューアルの担当をしていて、その企画を考えているときにふと、Webの脱出ゲームの世界観をお化け屋敷で展開できればおもしろいんじゃないかなと思ったんです。当時私の知る範囲では、そんなおばけ屋敷を作られているところはなくて、もし実現したら話題になるだろうなと。それでいろいろと調べていたら、京都のSCRAPという会社がリアル脱出ゲームというものを世の中に出しているということをネットで知って、加藤(隆生/SCRAP代表)さんにメールをしたんです。それがきっかけですね。
──それまでリアル脱出ゲームに参加された経験はなかったんですね。
まだその当時、SCRAPさんは東京ではほとんどイベントをされていなかったですしね。で、メールをした後に加藤さんがたまたま東京に来られるタイミングがあって、加藤さんと飯田(仁一郎/SCRAP取締役)さんがよみうりランドに来てきてくださったんですよ。それがお2人のスケジュールの都合で結構遅い……多分9時、10時くらいの時間で。当時うちはまだイルミネーションもなく、夜の営業はやっていなかったんです。閉園後の遊園地で、私は新しいおばけ屋敷を作る気満々で案内していたんですけど、そのときに「これはもう、夜の遊園地を全部使ってゲームをやったら面白いんじゃないか」っていう話で盛り上がりまして。SCRAPさんとうちの双方で検討した結果、おばけ屋敷ではなく、夜の遊園地全体を使ってリアル脱出ゲームをしようとなったんです。
──たまたま下見に行ったのが夜だったから、夜の遊園地を舞台にしたゲームが生まれた。
そうですね。ただ当時、私もリアル脱出ゲームを体験したことなかったですし、社内でもやったことのある人間がいなかったので、大阪のHEPホールで開催されていた『ある飛行機からの脱出(2010年)』に、上司とともに参加させていただいたんです。そこで実際体験してみて「これだったら行ける」という感触を得て、社内でプレゼンして、何とか企画が通って…っていうのが開催までのいきさつです。私も当時入社3年目でいろいろなイベントの経験はさせていただいていたんですけど、自分がゼロから計画するのは初めてで、しかも過去遊園地でやったことがないイベントだったので、冒頭申し上げたように強く印象に残っています。
遊園地にチケットを求めるお客様の列ができて驚きました
──よみうりランドさんもSCRAPも初めてのイベントで、試行錯誤しながら作られたと思うのですが、どんな苦労があったのでしょうか?
うちとしては一番最初にイベントを開催するに当たって、リスクを洗い出しました。1つは、参加者が立ち入り禁止エリアに入ってしまう可能性があるので、それをどうコントロールできるのか。もう1つは、当時は園内にイルミネーションもなかったので、どうやって営業できる明るさを確保して、お客様がお怪我をされないような体制を作れるか。ただ実際始まってみると、お客様は、立ち入り禁止エリアには全く入りませんでした。もともとそういうストーリーや謎になっているということもありますし、お客様自身が、決められたルールの中でクリアすることが大事なポイントだと思われている。また、危なそうなところは何回か回ってみて追加で照明を足したり、動線に工夫を凝らしたこともあって、お怪我をされる方もほとんどいらっしゃいませんでした。
幻想的な雰囲気の中で行われた公演の様子(会場撮影/岩田雅也)。ちなみにピエロ担当は今を時めくSCRAPディレクター堺谷光。
──奥谷さんは『夜の遊園地からの脱出』のコンテンツにはどの程度かかわっていたのですか?
コンテンツ作るところから入れてもらっていましたね。こちらから、遊園地にこんなマークがあるとか、ガイドマップを使って何かできないかとか、そういったアイデアを情報交換しながらいくつか出したと思います。SCRAPの方々には、よみうりランドに何回か足を運んできていただきましたし。当時は京都から1台の車にスタッフ皆さんが乗っていらっしゃっていたんですよね。
──実際に『夜の遊園地からの脱出』が出来上がって、どう感じられましたか?
中身よりも前に、反響に驚きました。プレイガイドの前売りチケットが即完したんです。チケットの一部は遊園地の売り場でも販売していたのですが、発売当日にプレイガイドの分がすぐになくなったので、次の日の朝一に、遊園地にお客様の列ができた。100人くらいの方々が、チケットを買うためだけにわざわざ来てくださったんですよ。追加公演のチケットも全部売り切れて、オークションでとんでもない金額でやりとりされていたり……あの盛り上がりっぷりは今でも忘れもしないですね。
それだけ注目度が高い中、満足してもらえるイベントを作るのは大変だなと思いましたが、私としては『ある飛行機からの脱出』を体験して、これだったらどんな内容になるにせよ行けると感じていましたし、加藤さんは「夜の遊園地という特別な場所に入れる、ロケーション的な魅力がある」とおっしゃっていて……私たちにとっては夜の遊園地は非日常じゃなくて逆に日常なんですけど(笑)……そういうひとことがあったので、自信が持てましたね。
遊園地でリアル脱出ゲームのアトラクションを作るのが夢です
──『夜の遊園地からの脱出』を行って、よみうりランドさん側に何か残ったものだったり、得たものはありますか?
まずは注目が集まったことです。お客様に「よみうりランドはおもしろいをことやる遊園地だ」と思っていただけた。当時はリアル脱出ゲームという言葉もまだ浸透していなかったですし、いろんな意味で新しい取り組みをしている場所だと評価していただけたかなと思っています。
──『夜の遊園地からの脱出』は第2弾(2012年)を経て、そこからシリーズ化し、全国に波及していきました。それはどう見られていましたか?
毎回うちをツアー会場に入れていただいてありがとうございますと(笑)。あと私がすごくうれしかったことがあって、『夜の遊園地からの脱出』が終わった次の日に加藤さんがブログで、最初に私が送った一通のメールが、後に日本の遊びの歴史を変えたと言われるかもしれない、ということを書いてくださったんです。実際に今リアル脱出ゲームがすごく大きくなっていますし、皆さんがいろんな場所でご活躍されているので、そのときブログに書いてくださったことは今でもうれしく思っていますね。
ドラマチックさに磨きがかかった『夜の遊園地からの脱出 vol.2』。その後、ナガシマスパーランドやかしいかえんでも新作が開催され、全国遊園地ツアーも行われた。
──最初の『夜の遊園地からの脱出』のころと、さまざまなイベントをさせていただいてる現在とで、SCRAPの印象は変わりましたか?
人は変わられても、皆さんの考え方とか雰囲気は一貫してる気はします。うちも最初の『夜の遊園地からの脱出』がすごい盛り上がりだったので、そこから社内の印象が良くなったんですよ。むしろ上からは「次はいつやるんだ」って言われていました(笑)。
余談ですが、『夜の遊園地からの脱出』が成功したおかげで、私は「努力賞」という会社の賞を個人で初めてもらったんです。それ以降も個人でもらった人間はいなくて。当時、加藤さんと飯田さんからは「奥谷さん、これで出世間違いなしでしょう」って言われたんですが、なかなか(笑)。
──今後リアル脱出ゲームはこんな風になっていくだろうとか、もしくはこういうことをしてほしいと思うことはありますか?
常設店舗とか世界展開とか、いろんなコンテンツとのコラボレーションをされていて、新しい階段を一歩一歩着実に上られてると端から見ていて感じますし、世に出していくものがこれからもますます増えていくんだろうと思います。
もちろん夜の遊園地のシリーズは、うちにとっても魅力的なイベントですので続けてほしいと思っていますが、正直なところを言うと、遊園地でリアル脱出ゲームのアトラクションを作るというのが私の1つの夢だったりします。60分や90分のゲームではなく、遊園地の乗り物としていつでも楽しめるものができたら……よみうりランドという場所に関して言えば私はそう願っていますね。
夜の遊園地シリーズ最新作は『夜の魔王城からの脱出』。ただいま全国ツアー中。よみうりランドでは2017年4月〜5月に開催される。
■プロフィール
奥谷祐/おくたに・ゆう
1985年、京都府生まれ。株式会社よみうりランド遊園地事業本部企画・宣伝部。2008年入社以来、『よみUReeeeNランド』『ワイワイ笑フェス』『全国ご当地大グルメ祭』など、さまざまな企画や宣伝を手掛ける。2010年に『夜の遊園地からの脱出』で初めてSCRAPとコラボしたイベントを開催。以来、『夜の遊園地からの脱出vol.2』『よみうりランド園長誘拐事件vol.1/2』『神速のゲノセクトから遊園地を救え!』『夜の魔王城からの脱出』といった数々のSCRAPのイベントを担当している。
※本インタビューは再構成した上でSCRAP出版より2017年6月発売予定の『リアル脱出ゲーム10周年記念本(タイトル未定)』にも掲載します。お楽しみに!
(2017年2月3日収録:インタビュー&構成/熊崎真敬、大塚正美、撮影/佐藤哲郎)