リアル脱出ゲームを深く知る10人の関係者インタビューvol.6 ヨーロッパ企画・上田誠
京都カルチャーシーンを共に盛り上げてきた初期SCRAPの目撃者
公開日:2017/04/11
リアル脱出ゲーム10周年記念企画としてこれまで支えていただいた方々に取材を続けているこの記事。第6回となる今回は、京都を拠点に活動する劇団ヨーロッパ企画の代表である上田誠さん。SCRAPと同じく京都発のカルチャーを作る上田さんに、アイデアの根源と広がり方やチームとしてのSCRAPについてお話を伺ってきました。
「脱出」って概念を発見した加藤さんに先見の明があったんだなって思います
──SCRAPとかかわるようになったきっかけは?
誰かの紹介で引きあわせてもらって、2004年にフリーペーパーの誌面で連載を始めさせてもらったのが最初です。そこから加藤(隆生/SCRAP代表)さんと交流が始まって、うちのWeb上の企画でリアルタイムの謎解きを仕掛けてもらったり、僕らがやっている『ショートショートムービーフェスティバル』という短編映画の映画祭に、劇団のメンバーが謎解きをするドキュメンタリー作品を出してもらったりしました。あと、対談やSCRAPさんのイベントに呼んでもらったりいろいろやりましたよ。あ、SCRAPの社歌も作りました! 作詞作曲は僕です。
──リアル脱出ゲームに参加されたことはありますか?
ないんですよ。言い訳をすると、参加するアトラクションがあまり得意じゃなくて。リアル脱出ゲームって人とやるじゃないですか、そういうのが得意じゃなくてちょっと足が遠のいてますね。でもお正月の謎解きは毎年クリアするまでやってますよ。
──上田さんはもともとWebの脱出ゲームがお好きで、加藤とも脱出ゲームについて誌面で対談されていますが、最初にリアル脱出ゲームについて聞いたときどう思われましたか?
加藤さんに「脱出って本当に部屋から出るんですか?」って聞いたら、実際に部屋を出なくても「脱出できた!」って、みんながワーッとなるっておっしゃってて。僕は本当に部屋から脱出するもんだと思っていたので、それが想像とは違ってました。でも逆に言うとそれだけ「脱出」って言葉が強いのと、仮想的にそれをやって「脱出しました!」って言ってお客さんが盛り上がるっていうのは、「脱出」って概念を発見した加藤さんにすごく先見の明があったんだなって思います。
フリーペーパーSCRAP19号(2009年)「出口の見えない人生に、“脱出ゲーム”はいかがかしら?」特集にて、上田さんと加藤隆生の脱出ゲームに関する対談が掲載された。
僕の周りは男がめちゃめちゃ集まるのに、SCRAPは女子率が高いのが不思議
──加藤が出すアイデアについてどう思われますか?
話の共通項が多いからか、夜中にパッと加藤さんからメールが来ることがあるんですよ。「こんなん思いついたんですけど面白いと思いませんかー」とか。お互いそうだと思うんですけど、きっと似たような種を持ってはいて、だけど各々それを違うやり方で形にするんだと思います。例えば、僕もパソコンゲームとしての脱出ゲームは知ってる、だけどそれをリアル脱出ゲームのようにお客さん参加型にして、毎回ストーリーをつけて、ビジネスのスキームにのせてこれだけいろんなところとコラボして大きくする…このやり方は僕は全く持ってない方法なので。アイデアを形にして成り立たせて成長させるその手つきがすごいなって思います。僕の劇でも、ビルのゲートにカードをかざしてどんどん開けて進んでいくと、それがやがてパズル的になっていく……っていうのがあるんですけど(注:2014年に行われた公演『ビルのゲーツ』のこと)、僕はそれを2時間の劇にする。やっぱり種は近くても、アレンジが違うなあと。
──種が近いというのは同じものを見たり近いところにいたからでしょうか?
多分ゲームが好きなんですかね。僕は工学部で理系なんですけどネットの世界とかそういうのに猜疑心があって結構アナログなんですよ。でも加藤さんは文系のようで結構理系というか、いわゆるITを使って何かしようぜ!って人たちとものすごく相性がよくて。デジタルツールを駆使して現実を楽しもうぜ!っていう……何ていうんだろ……パーティーピープルですかね! 元々理系の僕にその要素がなくて、音楽から始まった文系な加藤さんがそっちに行くっていう。あと、SCRAPって女子率高くて、男性も女性的だったりそういう人が多い感じがします。僕の周りは男の人がめちゃくちゃ集まりやすくて、ヨーロッパ企画って割と軍団感があるんですけど、そういうところの違いも不思議ですね。
──SCRAPが東京に拠点を移したときはどう思われましたか?
東京に行くんだってときに、加藤さんと結構その話はしたと思います。加藤さんはそのときに、京都はブームとか火をつけてもすぐ消えてしまう、湿っている場所だって言っていて、東京にはもっと分かってくれる人、反応してくれる人がいるから行くんだと。でも、僕は京都というのはそういう場所を耕してじわじわと息が長いものを作る、そういうやり方を僕はやりたいから、京都に残って作り続けるのが面白いなって思っていて。厚かましい言い方なんですけど、自分がもし東京に行っていたらどうなっているんだろうとか、向こうがもし京都に残っていたらどうなっていたんだろうとか、そういうのをお互い平行線で見ているかもしれないです。東京って、自分から行ってもあんまり何も手に入らない街のような気がして、でも加藤さんは散々京都で耕して耕していろんな作物を持って、「もうぼちぼち来たらどうですか」って東京からもラブコールがあって行ったので、それはすごく理想的な行き方だなって思います。
──当初、リアル脱出ゲームがここまでブームになると思いましたか?
それはもちろん思わないですよ! いや、売れないだろうとかは思わなかったですけど、100人規模でやっていたのを見てるわけですから、それは分からないですよね。それに、いろんな企画をやっていた中の1つって感じだったので、これは大ヒットシングルになる!なんてのは、少なくともはたから見ていては分からなかったですね。もっと言うと、SCRAPの他のイベントも面白いじゃないですか。どれも面白いけど、ここまで差が出ている決定的な違いって分からないですね。
リアル脱出ゲームも演劇と同じく「公演」だけど、どちらかというと大きなパーティーっていう印象があります
──初期のリアル脱出ゲームにはヨーロッパ企画の役者さんがかかわられていましたが、それは上田さんを通してですか?
いえ、彼らに直接話が来ていたんじゃないですかね。僕自身も加藤さんが声をかけてくれたりして、かかわりたいなって思ってるけど、かかわるならリアル脱出ゲームのシナリオとか謎解きドラマの脚本とか、本当にガッツリになると思うんですよ。そうしないと面白くないし、なかなかそれにはタイミングが合わなくて。でも、他のメンバーは道具を作ったり、出演したりとか、そういうのは当時から割と気軽にできたんじゃないですかね。それで言うと、ヨーロッパ企画に手伝いで入りたいっていう若い方がいても、撮影の現場とか公演の劇場は職人のような人たちがいるので、気軽にお願いできないんですよ。気安く「手伝ってー」って言えるイベントはかなり限られてしまって。SCRAPは、もっとプロ集団っぽい構えになってもおかしくないのに「面白いパーティーしようぜ」って感じで今もやってるじゃないですか。加藤さんが人に振るのがうまいのかもしれないですね。僕にも「社歌作ってー」とか……そういうことですもんね。
2008年より大阪のHEP HALLで行われていたシリーズをはじめ、初期リアル脱出ゲームではヨーロッパ企画の役者陣に舞台制作、演技などで協力していただく公演も多かった。
──リアル脱出ゲームも「公演」と呼んでいますが、演劇との違いはどんなところにありますか?
全然違うでしょう。演劇は舞台上から発されるものを2時間黙って見てるっていう、位置エネルギーの差がはっきりしてるんですね。お芝居ってがっちり作品主義で、僕はそれが好きなんですよ。SCRAPさんが作るものって、お客さんも一緒に楽しもうよっていう、巻き込み型でされるじゃないですか。特にリアル脱出ゲームはその骨頂で、お客さんが物語やドラマを作るような……リアル脱出ゲームも「公演」だけど、あれはどちらかというと大きなパーティーっていう印象があります。
──他に、SCRAPについて印象深いことはありますか?
僕ら演劇って、チラシ作ったり舞台装置を作ったりするときに、見た目をポップにするようなところの手がいつも足りないなあって感じていて。その点、SCRAPは何だろう……広告代理店っぽいんですよね。というと変な聞こえ方かもしれないですけど、ポップにデザインするのがとても秀でているというか。代理店って、ものをもっとよく見せる仕事じゃないですか。僕が出演したSCRAPのイベントで『文作りコンクラーベ』とか『ロマンチック理数ナイト!』がありましたが、それも文作りっていう昔ながらの遊びを「こんなに面白いんですよ!」って見せたり、理数系っていうモテてこなかったモゴモゴした概念を「こんなに素晴らしいんですよ!」って見せる。その才能が加藤さんに異常にあるのかもしれないですね。それで周りにもそういうやり方が好きな人たちがたくさん集まってくるのかもしれないです。パーティーピープルっぽさも含めて。企画力ももちろんあるんですけど、それも含めてこういうパッケージの仕方をしたら、今までポテンシャルはあったのに埋もれていたものが見違えるようになる。それをするのが加藤さんは天才的に上手で、多分それに惚れて集まってくる人たちだから、そういう楽しいことが好きみたいな、そういう感じなのかな。面白いものを面白そうに見せる天性の才能があるんじゃないですか。
──今後、どんなリアル脱出ゲームをしたら面白いと思いますか?
ファミコンが流行ったときの高橋名人みたいな「どんな状況でもめちゃくちゃ早く脱出するスター」みたいな人に出現してほしいですね。問題作りの鬼みたいな人が10人がかりくらいで作った「絶対これは無理だろ!」っていうリアル脱出ゲームを、1人の超人的な人が解くのを観客が見守る、っていう“エクストリームリアル脱出ゲーム”を見てみたいです。分からないのを見るすごさってあるじゃないですか。これはフィボナッチ数列で何だとか、エニグマが何だとか言いながら、この薬品とこの薬品を混ぜてこんな気体が出て、その気体が気球をわーっと持ち上げたら……みたいなあらゆる知識を総動員しないと解けない、究極のリアル脱出ゲーム。世紀の大脱出!見てみたいです。
■上田誠Profile
1979年生まれ。1998年劇団ヨーロッパ企画を旗揚げ。代表として、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。2005年『サマータイムマシン・ブルース』が映画化、2009年『冬のユリゲラー』を原作とした映画『曲がれ!スプーン』が公開。2010年、構成と脚本で参加したテレビアニメ『四畳半神話大系』が、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。大喜利イベント『ダイナマイト関西2010 third』で優勝。2017年、『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞授賞。
http://www.europe-kikaku.com
※本インタビューは再構成した上でSCRAP出版より2017年6月発売予定の『リアル脱出ゲーム10周年記念本(タイトル未定)』にも掲載します。お楽しみに!
(2017年3月22日収録:インタビュー&構成/福森みほ、撮影/山下ダニエル弘之)