リアル脱出ゲームを深く知る10人の関係者インタビューvol.7 Marble.co 太田洋晃
リアル脱出ゲームの移り変わりを共に歩んだデザイナー
#10周年 #marble.co #リアル脱出ゲーム #関係者インタビュー
公開日:2017/05/16
リアル脱出ゲーム10周年記念企画として、これまで支えていただいた方々に取材を続けているこの記事。7回目に登場していただくのはMarble.coの太田洋晃さん。最初のリアル脱出ゲームから現在に至るまで、ビジュアルや謎解きキットのデザイン、公演中の映像も手掛けられています。可愛らしいキャラクターから複雑なキットまで、リアル脱出ゲームの魅力を最大限に引き出すデザインはどのように生み出されてきたのでしょうか。
制作上の難易度はやってみないと分からないところもある
──SCRAPとかかわるようになったきっかけを聞かせてください。
2003年にCLAPというフリーペーパーを加藤(隆生/SCRAP代表)さんと一緒に作ったのがきっかけです。このフリーペーパーは半年くらいで終わっちゃって、何かやりたいねーって言って出したのがSCRAP。それからしばらくは加藤さんはライティングと編集、僕らはデザインで一緒にフリーペーパーを作るという関係でやっていました。
──SCRAP関連でフリーペーパー以外に最初に制作されたものは?
リアル脱出ゲームが始まる前から誌面の特集に絡んだイベントをやっていたので、そのフライヤーの制作をしていました。最初の公演になる『謎解きの宴』では、初めに配られる招待状もキットもなくて、告知も誌面に載せた1枚だけでした。同じ号で『謎クーポン』っていう、誌面に載せた謎を解いたらお店の名前が出てきて、そこに行ったらサービスが受けられる……というのをやって、その辺りからみんな謎が好きなんだなって分かりました。
フリーペーパーSCRAPの特集「謎が京都にやって来た!」(2007年18号)。謎を解かないと店名や場所が分からないという一風変わった「謎クーポン」が掲載された。
──最初にリアル脱出ゲームの話を聞いたときはどうでしたか?
『謎解きの宴(2007年)』のビジュアルを作ったときは、これでイベントの内容が伝わるのか?このタイトルとビジュアルでお客さんは果たしてくるのか?と、加藤さんとちょっと悩んだ記憶があります。結果的にお客さんが来て、これでいいんだって思えました。
──最初に今のような謎解きキットを作ったのは?
キットらしいキットは2008年の「京都音楽博覧会」の宝探しです。お客さんが街に出て解くから、最初に全部渡してしまう必要があったんですね。リアル脱出ゲームでは、『HEP HALLからの脱出』シリーズ(2008年〜)の初めのころは招待状だけで、3、4あたりからチームごとにテーブルで解くという形になったので、問題用紙と解答用紙を作りました。リアル脱出ゲームでちゃんとキットを作ったのは『人狼村からの脱出』からで、あのときから今のようなキットになりました。でも今より紙も分厚くて大きい。だんだん薄く小さくなりました(笑)。
──キットを作ったときはどうでしたか?
普通のフライヤーじゃなくて、ちょっと加工が入ったり仕組みがあったので、デザインをする上では楽しかったというか、やりがいがありました。注文については結構バラバラで、しっかり見えているときもあれば、「折ったらこんな感じになるようにして!」みたいなざっくりした注文のときもあります。そういうときは実際にやってみて試しながら作ったり。あとは「こういう答えを出したい」っていうのを聞いて、じゃあ紙を立てたらいいとか丸めたらいいとか、デザイン的にできるやり方をこちらから提案するときもあります。
──そんな複雑なオーダーをすんなり受け入れられますか?
作った後に「次回はこういうのやめてね」っていうのはよくあります(笑)。制作上の難易度はやってみないと分からないところもある。彼らも最初は分からないし、いざやってみるとすごく大変で、次からはやめましょうってなることはあります。あと、物語性を入れ始めてからは、伝える情報が増えましたね。伏線やどんでん返しがあるようになって、お客さんにちゃんと状況が変わったっていうのを理解してやり進めてもらわないといけなくなったので。
純粋にお客さんを楽しませる、という気持ち的な部分は変わっていない
──パズルや謎は解いた上でデザインするんですか?
いや、解きません(笑)。最初はしていましたが、問題が変わることもあるし、ギミックやこういう答えが出たらいいんだなっていうのだけ理解してやっています。だから実際に作っていて、最終的にここを折るんだっていうのは分かっていても、そこに至るまでのキーワードは知らなかったりするので、それは現場で楽しんでいます。
──ロゴやキャラクターが可愛いものが多い印象ですが、それは太田さんのイメージですか?
最初のリアル脱出ゲームのテーマは“パーティーに出かけるようなイベント” だったので、結構大人っぽいイメージで作っていたのですが、何度かやった後に着飾ってやるもんでもないなと分かり、「脱出くん」が三頭身くらいになっていきました。あとはゲームっぽい感じの方がいいのかな、というのもあって、キャラクターはかわいくした記憶があります。「脱出くん」の他にも通称「とっつぁん坊や」というキャラクターもいましたが、最近は「脱出くん」がちょっと形を変えていろいろ出ていますね。
サングラスにハットという基本コスチュームが公演によって少しずつ変わる「脱出くん」(左)と、主にかわかたたまみディレクターの公演に登場する「とっつぁん坊や」(右)。
──昔のリアル脱出ゲームと今の印象で変わったところはありますか?
その時々で変わってはきているんだけど、根本の部分は変わっていないと思います。いきなりリアル脱出ゲームがボンっと出てきたわけじゃなくて、小さいイベントをやってきて、その積み重ねがあってここまで来ているので。東京に進出してとか、コラボしてとか、表に出ていない企業向けに受注してやる仕事とか、いろんなターニングポイントはあって、その辺をうまく変化しながらやってきてる感じはあるので、その上手さはすごいと思いますね。変わってるか変わってないかで言ったら変わってるんだけど、純粋にお客さんを楽しませるとか、気持ち的な部分は変わっていないと思います。
──この10年の一番の思い出と言えば何でしょうか?
タイミングタイミングで一緒にやらせてもらってきて、そういう面では時々でのいろんな思い出があるので、ずっとやって来られているのが一番の思い出ですかね(笑)。
誰もが出会いたいと思っていたシーンを見せてあげたい
──今後リアル脱出ゲームを通して、どのようなビジュアルを作っていきたいですか?
海外でやるようなものや子ども向けなど、言葉に頼らないものを作りたいですね。お客さんの層も広がってきているし、ビジュアルだけを見て「やってみたい」と思えるようなものを作りたいとは常に思っています。基本的に、リアル脱出ゲームのビジュアルって、どこかで見たことがあるシーンなんです。やってみたいと思わないところを見せられても、グッと来ない。「RPGでパーティーを組めます」とか、やってみたかったことをできそうな感じにしているんですね。「空から女の子が降ってきた!」みたいな……映画とか物語で誰もがそのシーンに会いたいと思っている、それを見せてあげるようにしたいと思っています。そういった既視感を大事にしつつ、でも既視感がありすぎると面白くなくなるので、そこをどう新しく作るかっていうところですね。
──他に大事にしていることはありますか?
キットで言えば、お客さんがどれだけストレスなく遊んでもらえるかを考えています。「今、宇宙でこういうシーンです」って言われたときにクロスワードをバンッて出されてもげんなりするから、ちょっと色や形を変えるとかして、お客さんが現実に引き戻されないように、世界観になるべく深く入ってもらえるようには気を付けています。
──実際にやってみて予想外の反応はありますか?
今でこそさじ加減が分かってきましたが、自分の中でこれくらい崩してもいいかな、デザインに馴染ませてもいいかなって思っても「難しすぎる」って言われて、元に戻したりしたことがありました。あと、お客さんの反応がダイレクトに来るのはやっていて楽しいです。普段仕事をしていて、良い悪いという声を直接受けることってそう多くないので、現場で反応をしっかり見れるというのはありがたいですね。他には、お客さんが意外とすんなり世界観に入っていく感じはすごいなって思います。
──最後にSCRAPへ向けてひとことお願いします。
まぁしっかり休んでしっかり働いてくださいと。最近、昔のフリーペーパーSCRAPを読み返してたら結構面白くて、加藤さんの文章もキレキレで……走ってばっかりだといろんなことをできないから、余裕を持って楽しんで作らないと、って思いますね。
■太田洋晃Profile
おおた・ひろあき/1976年生まれ。京都のグラフィックデザイン事務所 Marble.coデザイナー。2003年SCRAP加藤隆生と出会って以来、奇想天外なとんでも企画をデザインで面白そうに見せることをやりがいに、会社から怒られながらもビジネスとして破綻したフリーペーパーを10年近く発行し続ける。誌面の一企画として盛り上がったリアル脱出ゲームのデザインもそんな流れでこれまで作り続けている。謎キットデザインは特殊すぎてほかの案件にまったく応用できないが、会社から怒られながらも作り続けます。そんなMarble.coでは現在デザイナーを大募集中。
http://www.marble-co.net/portfolio/about/
※本インタビューは再構成した上でSCRAP出版より2017年6月発売予定の『リアル脱出ゲーム10周年記念本(タイトル未定)』にも掲載します。お楽しみに!
(2017年3月28日収録、取材・構成:福森みほ、撮影:有光悠希)