2024年3月31日(日)、リアル脱出ゲーム東新宿店が一時営業終了いたします。
公開日:2024/03/31
リアル脱出ゲーム東新宿店は、2011年7月26日、「アジトオブスクラップ」と言う名前でオープンしました。当時、ここ以外にお店を作るなんて想像もしていなかったので、〇〇店みたいな地域名もついていません。当時のニュースリリースには「アジトオブスクラップは、一定期間毎にリニューアルしながら運営される、SCRAPプロデュースのスペースだ。」と書いてありました。なんならお店とも名乗っていませんでした、スペース。確かに、その方がしっくりする実態でした。
スタッフは最初、店長の私がアルバイト。それ以外は、中学生から社会人まで、多種多様なボランティアでした。
各々自分の仕事が終わったり、学校が休みだったりした時にふらっとやって来て、私が困ってたら助けてくれたり、人手が足りなかったら手伝ってくれたり、何もしないでただ、控室、とは名ばかりの4畳半の狭い部屋で、お菓子食べたり漫画読んだり朝まで残ってくらだない話をしたり。そういう人が日々、「アジトオブスクラップ」を訪れてくれました。
何これマジでアジトじゃん。大人になってからも、こんなに愉快な人々と楽しい思い出が作れる場所があるんだな、もうすぐ終電なくなるけど、今日はまだ帰りたくないな、毎日そう思えた、思い出して書いているだけでちょっとセンチメンタルが過多で涙ぐんじゃう、そんなスペースです。なくなっちゃうのは寂しいな。
そして、全てが手探りで、完全に手作りで、とても手のかかるお店作りでした。
諸説ありますが、もしかしたら世界初の、脱出ゲーム、謎解きゲーム的なモノの常設店舗だったのかもしれないし、『謎の部屋からの脱出』『ある牢獄からの脱出』『時空研究所からの脱出』など、その後いくつもの地域や国で開催することになった「ルーム型」のリアル脱出ゲームが生まれた場所だし、日本の各地域だけでなく、中国、アメリカ、カナダや台湾にも作って行った「アジトオブスクラップ」「ヒミツキチオブスクラップ」「ナゾビル」「ヒミツキチラボ」「ナゾコンプレックス」「ミステリーサーカス」「リアル脱出ゲーム〇〇店」など、SCRAPが制作運営するお店の元祖でした。
あれから13年。今振り返ると、なんだかすごいお店な気がします。
当時「リアル脱出ゲームを提供するお店」は、少なくとも日本には確実になかったので、本当に全く、何をしたらいいかわかりませんでした。
まだ正式に雇われてもいないのに、契約書の最終的な締結と鍵の引き渡しに一人で行かされました。
その後、本屋に行って個人営業の飲食店や雑貨店を始めるノウハウ本を見てみたりしたけれど、あまり参考にはなりませんでした。
区役所や消防署に行って説明しても、何の店か理解できないから何の許可を出せばいいかわからないと言われて、実際に制服を着た消防署員の人たちに、リアル脱出ゲームを遊んでもらったりもしました。
ゲームの内容も、ゲームで作る小道具も、内装も、家具も、すべて数名の社員と、たくさんの何か面白いことやってるから参加してみるか、と集まってくれた有志で手作りしました。
美術が得意な人、建築が本職の人、謎を作るのが上手い人、やってみたらペンキを塗るのが上手かった人、ネットに強い人、計算が得意な人、音楽が好きな人、何もしないでただ笑って話してる人、差し入れを買ってきてくれる人… そういう人たちがたくさん集まって、いちばん最初の『謎の部屋からの脱出』を開催する「アジトオブスクラップ」を作りました。よくある陳腐な言い回しになってしまうけど、あのときいてくれた、どの人が欠けても出来上がらなかった「スペース」だったなと思います。
そうしてオープンしてからは「え、大人ってこんなに本気出して遊んで楽しむの?」という驚きの連続でした。毎日来てくれるお客さん、大の大人、が、ちょっと引いてしまうくらい本気で、ソファをひっくり返し、カーテンをめくり、引き出しをしっちゃかめっちゃかにし、叫び、指示を出し合い、その指示をこなし合い、首を捻り、謎を解きまくり、脱出を目指しては、喜んだり、悔しがったりする様を至近距離で見て、とんでもないスペースを作ってしまった… と驚くと同時に、こちらもすごく興奮し、すごく嬉しかった。この感覚はいまだに、新しいお店を作って、初めてのお客様をお迎えするたびに、新鮮に感じられる、最高の喜びです。
だからやっぱり、お店をひとつ閉じるたび、そのういう「大人が本気で遊ぶ場所」が減ってしまうことを寂しく感じます。
もう一つ寂しいのは、この「アジトオブスクラップ」または「アジトオブスクラップGUNKAN東新宿」または「リアル脱出ゲーム東新宿店」の入っている建物、通称「軍艦マンション」がもしかしたら今の形を留めない姿になってしまうかもしれないと言うことです。
「リアル脱出ゲームのお店を作るから店長をやってみない?」と、SCRAPの代表、加藤から誘ってもらったとき、決め手となったのは、お店を作る場所がこの「軍艦マンション」だったからです。
狂気の建築家として知られる渡邊洋治の名建築「軍艦マンション」に入居して働けるだなんて夢のようだ。と思ったし、実際に足を踏み入れた軍艦マンションは、想像を超えるかっこよさでした。あまりにも建物への思いが強すぎて、店舗数が増えてきて、店名に地域名を入れようとなった時も、あれこれ屁理屈をこねて、無理矢理「GUNKAN」という名を残したほどです。
戦艦みたいなかっこいい屋上の側面には、人が落ちれるくらいの穴がたくさん空いていて、その穴窓を除くと、東京の東西の景色が、絵画のように切り取られます。屋上以外にも、室内、バルコニー、エントランス、外壁など、様々な場所に「意匠としての役割しか果たさない、構造的には無駄な意匠」がわんさか施されており、その意匠全てが冒険心をくすぐるかっこよさを醸し出している、リアル脱出ゲームをやるには打ってつけの、最高の建物なのです。
オーナーからリニューアル工事が決まったと言われたとき、店舗を続けられなくなる! よりも、この建物なくすのか! マジか! という喪失感が、正直先に来てしまいました。
けれど、一時閉店まで1ヶ月を切って、久しぶりに屋上に上がってみたりして、こうやって振り返ってみたら、やっぱりこのビルにあるこの店、がなくなってしまうのは本当に嫌だぞ。と思いました。
まだ、どのような形でビルがリニューアルされるかは決まっていないということなので、リニューアル後に再びお店を続けたい。と、なんとかオーナーに食い下がり続けている状況です。
また、この場所で、人々が集まる楽しいスペースを開けますように!
株式会社SCRAP 店舗マネジメントチームマネージャー/アジトオブスクラップ初代店長 井家竜馬