巨大迷路×物語体験×テクノロジーが生み出す「超映画体験」
INSOMNIA TRAINからの脱出クリエイター座談会
#INSOMNIA TRAINからの脱出 #SEKAI NO OWARI #リアル脱出ゲーム #富士急ハイランド
公開日:2018/09/03
SEKAI NO OWARIの全国野外ツアー「INSOMNIA TRAIN」。その圧倒的なステージセットと巨大迷路を融合させた新しいエンターテインメントが富士急ハイランドにあらわれ、話題を呼んでいる。その名も、「インソムニアトレインからの脱出」。
今回は「リアル脱出ゲーム」を生み出したSCRAP代表の加藤と、大人気モバイルゲームの制作や、ゲーミフィケーションを活用したエンターテイメントを手がけるアカツキから橋本 、そしてオープニングの演出で最新技術による臨場感あふれる演出を実現したソニーの津崎という、本作にかかわる3名のクリエイターによる座談会を公開。
※写真左から、アカツキ橋本・SCRAP加藤・ソニー津崎
「絶対にやめた方がいい」
——今回、どうしてアカツキとSCRAPが、いっしょにセカオワのゲームをつくることになったんでしょうか?
アカツキ橋本(以下橋本):最初は、アカツキとセカオワさんとでお話を進めていました。これまでにない規模のセットを組んだ「インソムニアトレイン」というツアーが4月からはじまっていたのでそちらに協賛するかたちを考えていたのですが、ただの協賛も面白くないなと。
アイデア出しをする中で、ステージを舞台にしてリアル脱出ゲームをやったらすごく面白いんじゃないかという話になり、SCRAPさんにお声がけさせていただいたという流れです。セカオワさんとSCRAPさんの相性のよさは、昨年の竜の夜からの脱出で証明済みでしたし、アカツキとしても、リアルイベントに力を入れていきたいタイミングだったので、そういう意味でもバッチリでした。
——相談を受けた際の、SCRAPさんの反応は?
SCRAP加藤(以下加藤):「やめたほうがいいです」って言いました。
——取り付く島もないですね。
加藤:はい。100回は言いました(笑)。
——どうしてそんなにかたくなに……。
加藤:想像がつかなかったからです。全長50mっていう、とてつもない大きさのステージがあって、その前に何万人て収容する広大な空き地があって、これ、何かで埋めないとゲームになんないですよねって。特に、現地を見にいった時の絶望がすごくてですね……。今回の会場、冬場はスケートリンクになる場所なんですけど、競技用のスケートリンクって一周400mぐらいあるんでしたっけ?
——そうですね、陸上のトラックと同じサイズだと思います。
加藤:それがどーんとあって、「さあ、好きなもの作ってください!」と言われて「ちょっと待ってください。ただのスケートリンクですよ」と。現場みて何も思い浮かばないことってあんまりないのですが、今回はそうでした。ただ、こんな広大な広場で何かを作るっていう経験はそうできないだろうし、アカツキさんの技術にも可能性を感じたし、何よりセカオワの関わるものを作りたいなと思ったので、どうするか考えるのも含めて引き受けたんです。
——その後、「巨大迷路」というアイデアにたどりつかれるわけですね。
加藤:そうですね。下見にいったみんなで「広かったねえ」「そうですねえ」「どうしようねえ」「そうですねえ」と頭抱えて帰って来て。最初は、RPG風の街を作ろうかとも思いました。
——幕張メッセで開催された、ドラクエの公演に近いイメージでしょうか?
加藤:そうです。それならイメージも湧くしノウハウもあったんですが、ただ流用するだけだとつまんないよねと自分たちでボツにしました。
またふりだしで。とにかく何かで空間を埋めなくちゃいけない。あのだだっ広い場をどうにかしなくちゃいけない。そうやって考えていったときに、迷路を思い付きました。ただの迷路はつまらないけれど、デバイスを持って移動できるなら、物語のある迷路が作れるかもしれない。デバイスの存在が、迷路の見立てを変えてくれると思ったんです。モンスターがうようよいるダンジョンにもできるし、ちょっと入り組んだ街にもなるし、何か複雑な建物にもできる。物語との親和性が非常に高いアイデアだなと。
セカオワの「インソムニアトレイン」っていう世界観もあったので、これはすごい肌触りのいい、バランスのいいアイデアになるなと思いました。
日本中にあった巨大迷路が廃れたのは「物語」がなかったから
——巨大迷路って、昔そこら中にありましたよね。
加藤:ありました。行ってましたね。
——その時の経験って生かされていますか?
加藤:すごく生かされていますね。巨大迷路、大好きでしたから。でも、2、3回行ったら行かなくなって。
——それは、解き方がわかってしまったからですか?
加藤:うーん。というより、迷路という体験に飽きた感じでしたね。終わっていくエンターテイメントを想った時に、いつも考えるのが巨大迷路のことでした。日本中いろんなところに巨大迷路の専門スペースがあって、それがどんどん廃れて行ったから。
それを知っていたので、リアル脱出ゲームが流行り初めて、「ブームですね」ってことを言われるたびに、「ブームってことは、いつか終わるのか」と思っていました。
じゃあ、終わらせないためにどうしたらいいのか。迷路がなぜダメだったのか突き詰めたんですけど、ハードだけだったからかなと思って。たとえはめちゃくちゃかもしれないけど、映画館に映画がなくて、でっかいスクリーンとスピーカーがあって、映画館ってこんなとこなんだって見学するだけのツアーがあっても、流行りようがないじゃないですか。どんなに映画館が好きでも2.3回で飽きると思うんです。
それを反面教師にして、リアル脱出ゲームは物語体験を強化していきました。物語を体験する装置がリアル脱出ゲームであり、謎を体験する装置ではないなっていうキーワードを繰り返し世の中に発信していた時期があったんですけど、それはそんな理由からでした。
一方で巨大迷路をなんとかしてやりたいっていう気持ちもずっとあったんです。
——じゃあそこにストーリーがあって、最新技術(後述)があった今回は……。
加藤:強いデバイスがあったおかげで、巨大迷路に物語を注入することができた。ずっと見学だけだった映画館に、やっと映画をかけられたっていう状態ですね。
——今後の展開にも期待が持てそうですね。
加藤:この仕組みが今後もっとゲームよりのそれこそドラクエに近いような「リアルダンジョン」になっていくのか、リアル潜入ゲームのようなもっとアクション性、身体性をおびたものになっていくのか。今作られたハードとソフトの融合っていうのはどっちの方向にも進んでいく方向性になったなあと、誰も持っていないHow toを獲得することができたという感覚はあります。
振動とARが、物語を増幅する
——実際にプレイさせていただいて、まず冒頭の演出に驚きました。まさかあんなに簡素に見えるもので、あんなことができるとは……。
加藤:ぼくも正直あなどっていました。アカツキさんにソニーさんの技術……ハプ……ハプぅ……。
ソニー津崎(以下津崎):ハプティクス技術(※)です(笑)。
(※ソニーが開発に取り組んでいる触覚提示技術。本公演に導入されており、動画の映像や音響に合わせて床が振動するなど、触覚に訴える演出を行うことによって、全身で楽しめる臨場感と没入感のある体験を実現している)
加藤:そう! それです! それを使いたいって言われて、最初は入れても入れなくても同じじゃないかと思っていました。申し訳ないんですけど、ぼくはその、新技術とかまず疑ってかかるタイプで。アナログでいけるならアナログでいきたいですし。
実際リアル脱出ゲームでも、スタッフにすすめられて導入した技術が、「ぜんぜん効いてない」ってことがけっこうあったんですよ。現場で体感してイマイチで、「これ、(コスト)いくらだっけ?」って聞いてさらにテンション下がったりして。
——今回はいかがでしたか?
加藤:今回もアカツキさんとSCRAPの社員に絶対入れるべきって言われて、しぶしぶというのが実際のところでした。「振動するだけでしょ?」って。でも、いざ完成した演出をみたらすごくて。ソニーさんごめんて思いました。
津崎:ありがとうございます(笑)
加藤:いやほんとに! 物語と身体的な刺激が連動した時にこんなに大きな効果があるんだと。スタートの演出としては完璧なものができたし、大成功だったなと思います。
——はじめて体感した技術だったのですが、色んなところで活用されているものなのでしょうか?
津崎:今回のように、商業用として一般のお客さん向けに床から振動を伝えるというかたちははじめてです(笑)。ハプティクスという技術名自体は、ソニーの商標ではなく、一般名称となります。BluetoothやWi-Fiといったものと同じ位置付けですね。ソニーのハプティクス技術はリアリティを追求した表現力の高さが特徴です。
この技術を床に活用することで、映像や音に合わせて床の揺れを演出することができ、『インソムニアトレイン』の世界観をよりリアルに体感し、没入体験を提供しています。
——演出面で言えば、iPadアプリの動きの気持ちよさもすばらしかったです。iPadを使うことは、最初から決まっていたんでしょうか?
橋本:ありがとうございます。アカツキのソフトウェア開発という強みと、SCRAPさんのコンテンツ開発能力とを掛け算できないかとずっと模索していました。今回、4人でプレイしてもらうことを想定していたので、みんなでのぞける大きい液晶をということで、iPadの活用を決めました。
——iPadで場内の色んなサインをスキャンする際、それがQRコードではない、イラストのようなものであるのにも驚きました。あれはどういう技術なんですか?
橋本:あれはビューホリアという、ARの技術を使っています。画像認識ですね。画像のコントラストとか画像自体を認識して特定のアクションを起こすっていう技術があって、それを使いました。
——あと、あれすごいですよね。iPadといっしょに保冷剤が配られて……。
橋本:そこ触れます?(笑)。暑さ対策が必要というのは初めからわかっていました。日陰を多くしたりとか、画面の色を暗めに調整したりだとか、iPadの裏に保冷シートを貼ったりだとか色んなテストをして、それで耐えられるという想定だったんですけど……気温がとんでもないことになりまして。
——iPadに何が起こるんですか?
橋本:オーバーヒートですね。車と同じで、「もう走れませんよ」といった表示が、20分ぐらいで出てしまうんです。試行錯誤の結果、もっとも効果があったのが保冷剤を裏から当てるという原始的な方法でした。沼津まで自分たちで車を飛ばして、業者さんから保冷剤と冷凍庫を買って、それでやっと、50分間問題なく稼働するようになりました。
セカオワさんとの綿密なLINE打ち合わせ
——セカオワメンバーのみなさんは、今回のゲームづくりにはどうかかわってらっしゃるのでしょうか?
加藤:今回、最後にプレイヤーに届くメッセージがあるんですが、これはセカオワのみなさんが書き下ろしてくれたものになります。
——そうなんですね!
加藤:その他にも、世界観のすり合わせについては、綿密なやりとりをさせてもらいました。「インソムニアトレイン」は彼らの頭の中にしかないものなので、そこを教えてもらいながら。そういう意味では、かなり強く監修してもらっています。メンバー4人+ぼくの、合計5人のLINEスレッドがあるんですけどそれをフル活用して。
橋本:デザインをはじめとした世界観について、アプリも含めて、かなり熱いフィードバックをいただきました。
加藤:細部に対するこだわりがすごくて。ライブの時にもここは大事にしているので、このゲームの時にもここを大事にしてくださいっていうのはめちゃくちゃたくさんありましたね。
——セカオワとのコラボは2度目ですが、前回を経て、今回特に気をつけたことはありますか?
加藤:今回はうちは主催というよりは、制作会社としての立場が強かったので。制作に関してスムーズに行くように物語の根底がひっくり返されないようにというのは気をつけました。迷路をゲームのシステムとしてちゃんと使うというのもそうですね。
前回とは全く違うゲームだから。ぼくらも最後の最後までなぞと物語と迷路の関連性というかその3つが組み合わさった時にどういう面白さがあって、どういう難易度になって、その結果がどういう体験になってどういう思い出になるのかっていうのを延々とシミュレーションしました。最後の最後の日まで文章を変えて、壁の位置を変えて、デザインを直してって。ずっとニコニコしてくれていたアカツキのみなさんから笑顔が消え、ピリピリとした空気になっていってしまいましたが。
——どんな小さな修正でも、何十台とあるiPadのアプリをアップデートして反映させなきゃいけないわけですよね。
橋本:そうなんです(笑)。SCRAPさんのこだわりは本当にすごくて。修正依頼を「今からはできないです」って突っぱねるんですけど「できないのかあ……」って、ちょっと暗くなられるんですよね。「残念だなあ……」みたいな。そういうの見て、結局やっちゃうみたいな。何度も「怒られますよ」って言ってるのにコンテンツ変えてくるんですよね(笑)。でも、やっててすごく楽しかったです。開発メンバーもみんな、またやりたいって言ってますね。
——タイミングはともかく、明らかにゲームがよくなる指示ではあるわけですね。
橋本:そうですね、お客さんを喜ばせたいという目的はいっしょだったので。
——SCRAPさんはいつも本番直前ギリギリにゲームの修正や改変をされるイメージがありますが、実際のところ、関係各所への申し訳ない気持ちとかっていうのはお持ちなんでしょうか……?
加藤:持ってるに決まってるじゃないですか! ただ今回に関しては、言い訳になってしまいますけど、実際に歩いてみて「ああダメだあ」っていうのが多々あったんです。それは想像力の欠如と言われればそうなんだけど。こうした方がよくなると思うんですっていうのを、情に訴えかけてなんとか……。自分たちがどれくらい大変なことを言っているのかは、アカツキのみなさんの表情の変化で察していました。
橋本:わはははは(笑)。
加藤;まああれもねえ、富士急の夜一時からの会議。
——何日前くらいですか?
加藤:それはまあ……(はぐらかす)。大変だっていう、それだけひどいことを言っている自覚はあるんですけど、やった方がいいのは確かなので。本当に無理なとき用に代案も用意するんですよ。
橋本:でも、「無理なら、ちょっとかっこ悪いんですけど、ボードに注釈つけますか……かっこ悪いけど、仕方ないですよね。かっこ悪いけど……」とか言われたらやるしかないじゃないですか(笑)。
加藤:情に訴えるのは我が社の常套手段です。
一同:わはははは(笑)
「超臨場感のある映画」のような体験
——最後に、これからご来場のみなさんにメッセージをお願いします。
津崎:ソニーとしても初めての試みなので、ぜひ感想をお聞かせ願いたいです。「こんな風に活用できそう!」といった、今後の活用法までイメージした感想をもらえたらすごくうれしいですね。そうなればまた、それを元に新しいテクノロジーの開発を進めていけるので。是非体験していただいて、ツイッターとかインスタで広めていただきたいなと思います。
橋本:アカツキとしては、モバイルゲームで培ってきた強みを今回、謎解きアプリというところにはじめて転用して、自分で言うのもなんなんですけど、いいアプリができたと思っているので、ぜひそこに注目していただきたいです。みなさんの没入を助ける、さわって気持ちのいいものに仕上がっていると思います! アンケートでは「またやりたいです」という方が98%。5段階評価で満足度4以上をつけてくれた人が90%以上と驚愕的な数字を出しています。
加藤:本当にすごい物語の装置ができたなと思っています。床が震えるっていうことが、迷路の中にデバイスを持って入る、しかもチームで協力してそこの中を冒険するってことが、こんなに物語を増幅するとは思いませんでした。
迷路って言ったらアトラクションになっちゃうし、謎解きって言ったらゲームになっちゃうけど、巨大な映画のセットの中にみんなで入れる装置を作れたような気持ちでいるんです。
ぜひ一本のものすごく超臨場感のある映画を観に来る気持ちで来てもらえたらと思います。本当に忘れられない体験になると思うし、来ないと損です!