『ワルプルギスの夜からの脱出』ネタバレ完全解禁インタビュー! 『魔法少女まどか☆マギカ』とリアル脱出ゲームの魅力と「主人公力」
公開日:2022/07/30
2021年12月から開演している、リアル脱出ゲーム×『魔法少女まどか☆マギカ』コラボイベント、『ワルプルギスの夜からの脱出』。大ヒットアニメの世界観を反映しつつ、仲間とともに「脱出」を目指す本作は、東京を皮切りに、名古屋、仙台、大阪、福岡、札幌、岡山、仙台と、全国8都市で開催。その大成功を受け、さらに現在「東京ミステリーサーカス」にて追加公演も絶賛開催中です。
その『ワルプルギスの夜からの脱出』開催に寄せて、今回10年来のリアル脱出ゲーム大ファンであり、『魔法少女まどか☆マギカ』も大好きな編集者「たられば(@tarareba722)」氏による、本作コンテンツディレクター武智大喜氏、さらにリアル脱出ゲームの生みの親であるSCRAP代表の加藤隆生へ氏にインタビューを実施。
『ワルプルギスの夜からの脱出』の魅力、リアル脱出ゲーム大ヒットの要因、あの謎やこの謎の作り方、ついでに印象深いリアル脱出ゲーム作品などを記事にしていただきました!
たられば…19.6万フォロワーを抱えるツイッタラー兼編集者
武智大喜…作品愛溢れ過ぎるSCRAPディレクター(『ワルプルギスの夜からの脱出』担当ディレクター)
加藤隆生…8年前に会社のお金で『魔法少女まどか☆マギカ』を語るイベントを開催したSCRAP代表
(敬称略)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
<注意>
このインタビューに『ワルプルギスの夜からの脱出』の
公演に関わるすべてのネタバレが含まれます。
まだ参加されていない方はご覧にならないようご注意ください。
<詳細>
リアル脱出ゲーム×魔法少女まどか☆マギカ
『ワルプルギスの夜からの脱出』は7月31日(日)まで!
公演に参加できる最後のチャンスです!
特設サイト:https://realdgame.jp/madoka-magica/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「リアル脱出ゲーム好き」としての生きざま
たられば/本日はよろしくお願いいたします。大変楽しみにしておりました。早速ですが、『ワルプルギスの夜からの脱出』、体験しました! 始まる前から世界観にのめりこんで、ワクワクしていたんですが、始まったらあっという間の1時間で…すごく楽しかったです。登場人物との一体感がすばらしかった。
武智大喜(以下、武智)/よろしくお願いいたします。嬉しいです。
加藤隆生(以下、加藤)/よろしくですー。『ワルプルギスの夜からの脱出』は、(プレイしてみて)脱出できましたか?
いやあ、それが…ダメだったんです。最後の「謎」まで辿り着いて、そこで脱出失敗。すごく悔しかったです。
(『ワルプルギスの夜からの脱出』は脱出成功ルートが3つあるが)それは「3つのどれにも辿り着かなかった」ということですか?それは単純に時間切れで?それとも何か理由があって失敗したパターンでしたか?
詳しくは言えないのですが、「最後の謎をどう解くか」というチームメンバーとの話し合いの時点で、脱出する手段の可能性には「メンバーの誰かを犠牲にすれば脱出できるかもしれない」というルートの可能性には気づいていたのですが、「全員で脱出するハッピーエンド(いわゆる「トゥルーエンド」)でないかぎり、「この方法で脱出しても意味がない」ということになりまして…それで、最後の最後まで考え続けて、脱出失敗となりました…。
ああー、わかる。
わかってくれますか。
それもまた、リアル脱出ゲーム好きの生きざまとして正しい姿ですね。
生きざま。なるほど。
『魔法少女まどか☆マギカ』の魅力とは?
リアル脱出ゲームって、見知らぬ人と一緒にチームを組むこともあるじゃないですか。あれ、終わったあとの「仲間感」がすごいんですよね。毎回「このあと一緒に食事でもどうですか」と誘いたいのを、ぐっとこらえて解散しています。
やっぱり緊迫感は仲間意識を強めますよね。一緒に命や世界の危機から脱出するわけですし。それも感情が大きく動いた影響のひとつだし、『魔法少女まどか☆マギカ』のような、世界そのものに危機感や緊迫感がある作品はそのぶんゲームに没入してもらいやすいなと思います。
コラボ元である『魔法少女まどか☆マギカ』の魅力はどんなところだと思いますか?
そうですね…ぼくは「魔法少女」という概念そのものを変えた作品だと思っています。ぼくらの世代だと、ギリギリ『魔法使いサリー』とか『ひみつのアッコちゃん』くらいまで記憶の欠片があって、そこから進化して『ミンキーモモ』だとか『プリキュア』シリーズまで繋がっているわけですよね。その連綿と続く「魔法少女」という、手を変え品を変えて使い続けられたタイトルをあらためて掲げて、それまでのお約束を全部守ったうえで、「そのお約束って、実はこういう仕組みだったんです」とやったわけです。それってこれまでの40年とか50年の魔法少女ものの歴史を全部「前フリ」にしたってことなんですよね。「全部、本当に全部前フリにしちゃったんですかあなたは…!!」と思ったわけです。
すばらしい分析です。なるほど…。
ぼくもリアルタイムで見ていたんですけども、展開や構成がうますぎるなぁと思っていました。読者がどう思っていてどう感じたかを完全にコントロールしているぞと。まず最初のタイミングでふわっとさせてからマミさんが大変なことになってガクッと落として、そこで「契約」が出てきて「これもう絶体に契約しないでしょう」となってから、ほむらの秘密が明かされて契約するしかない…ってなって、無駄なものが何もないわけです。ちゃんとひとつひとつに理由があってまったく無理がない。
それで最後「この絶望的な状況を覆すには『これ』しかない」という状況になって、それで「これ」を選ぶわけですよね。あれから(放送終了から)10年たってずっと考えているけど、どう考えてもあの方法でしか救えないわけです。矛盾もないし対価も支払っている。「すごい問い」に対する「すごい答え」になっているという。
なるほど…わたしは、中心キャラクターであるまどかとほむらが、最後の最後まですれ違っているところ、お互いの意思や欲求を分かり合わないまま、ズレたまま決着したところが面白いなあ…と思っています。ほむらにとっての唯一で、どんな犠牲を払っても救いたい相手はまどかなのですが、まどかにとってまず最優先すべきなのは「世界」であって、その中大きなくくりの中での一番がほむらなんですよね。最終話のタイトルどおり、まどかとほむらはお互いが「最高の友達」であるけれど、愛情のサイズと対象が違う。このコミュニケーションの断絶はずっと埋まらなくて、で、実はそういうコミュニケーションのエラーは身近でもよく起こっているよなあ…と。そういう気づきがあるんですよね。
あ、すみません、わたしが語っている場合ではなかった。そろそろ『ワルプルギスの夜からの脱出』についてのインタビューに入りましょう!
『ワルプルギスの夜からの脱出』制作の舞台裏
まず、本公演の製作期間ってどれくらいだったんですか?
うーんと、正式に話が来たのは2021年夏くらいですね。『魔法少女まどか☆マギカ』のTVアニメ放送から10周年で、2021年のうちに何かやりたい、というのと、(鹿目)まどかの誕生日(10月3日)に告知したい、ということで話が決まりました。
正直、数年前から作りこんでいると思っていました。すごいな…。今回の公演は、各所から強い『魔法少女まどか☆マギカ』が感じられました。SCRAPさんはこれまでさまざまなマンガ、アニメ、ゲーム作品(『ONE PIECE』『鬼滅の刃』『名探偵コナン』『進撃の巨人』『宇宙兄弟』『ちはやふる』ほか)とコラボしていますが、リアル脱出ゲームを作るうえでは「コラボ先への作品愛」は長所になることも短所になることもあると思います。今回はどうでしたか?
ディレクターによりますね。ぼくの場合は「『魔法少女まどか☆マギカ』だからハマる謎、ハマるゲーム」になることが理想だなと感じています。他の作品だと合わないけど、『魔法少女まどか☆マギカ』なら合う、と。この公演の製作陣は、初期からわりと『魔法少女まどか☆マギカ』好きのメンバーが集まっていて、最初の一か月でガッと「『魔法少女まどか☆マギカ』だったらこういう方向だよね」と決まっていった部分がありました。
「『魔法少女まどか☆マギカ』だったらこういう方向」というのはた、たとえば「学校が舞台である」だとか、「ゲームの途中で時間が巻き戻る」だとか、「魔女の倒し方をプレイヤーに考えさせ要や名前を当てさせよう」だとか、そういう要素をまず決めた、ということでしょうか?
それでいうと、本公演には、ぼくも含め荒浪(裕太)さんという謎作りがすごく得意なスタッフ(SCRAPコンテンツディレクター)が入っていて、ぼくも謎作りはわりと得意なので、この2人がいれば謎のほうはあとからなんとかなるね、まずはお客さんにどういう世界を見せて、どういう物語を体験させて、どういう気持ちになってもらおうか…というあたりを話していきました。「時間はループさせよう」とか「最後に苦渋の決断をしてもらおう」とか。
「最後に苦渋の決断をしてもらおう」、なるほど。
(『魔法少女まどか☆マギカ』)でいうところの、仲間がみんなやられてしまって、そこでキュゥべえから「僕と契約して魔法少女になってよ」と言われて、あとはもう自分が契約するしかないのか、いや、でも…といった葛藤を実際にとなって、そこで時間が巻き戻って…というところを体験してほしいなと。
うーん、そうか、まずお客さんの感情の動きを考えるんですね。
そもそも『魔法少女まどか☆マギカ』って、見ていていろんな感情が湧き起こる作品じゃないですか。衝撃だったり不安だったり希望だったり絶望だったり。そういう感情のジェットコースターみたいな体験を目指したところは大きいですね。こういう狙いはコラボする作品によって違うんですが、たとえば『進撃の巨人』はこういう方向が近いんじゃないかなと思います。
見ていて「情緒がぐちゃぐちゃになる」という点で共通点があるわけですね。
情緒をぐちゃぐちゃにしてそれを引きずってほしい
これはぼくの信条なんですが、「自分が死んじゃう」というのはあまりリアリティがないと思っていて、それよりも「目の前の人が死ぬ」とか「目の前の誰かを殺してしまう」というほうが切実に感じられると思っているんですね。
ふむふむ。
「『魔法少女まどか☆マギカ』ならそれができる」と思ったんです。やむをえずその選択をしちゃった人には、それをずっと引きずってほしいなと。
「ずっと引きずってほしい」。『魔法少女まどか☆マギカ』ならできるぞと。
チャンスだ、と。
たらればさんが先ほど「全員が脱出できないなら意味がない」と仰ったのは、だから狙い通りなんですよね。そういう「ぎりぎりの選択」をしてもらいたかった。
ああああ狙い通り…。
もちろん「ゲームなんだから、全員救われるルートがあるんでしょう」というメタ推測は可能で、「探し続ける」という選択の現実味が増すんでしょうけども、一方で「街を救ってください」ということを最初から強く言い続けることで、目的をはっきりさせてもいました。最後にとあるミサトを見捨てるルートに入って膝をついて泣き崩れたお客さんがいらっしゃって、「ああ、作ってよかったな」と思いました。
泣き崩れたお客さんを見て、作ってよかったと!
まあまあまあ、それだけ感情が動いたということですね。
製作の過程では、どういう設定でミサトを闇落ちさせるかなというところで、わりと変わっていきましたね。
闇落ちするのは確定事項だったわけですな。
最初は(美樹)さやかみたいに恋愛がらみからの闇落ち、という案もあったのですが、それだと引いてしまうお客さんもいるか、と議論があって、恋愛よりは友愛がいいんじゃないか、ということで現在の形になりました。
本公演オリジナルキャラクター「ミサト」について
ミサトさんのキャラクター造形はとてもよかったです。
ミサトについては、実際に人間が演じる必要があるのか、というのも議論になりました。モニターの中のキャラクターでもいいのではないか、とか。実際に人間が演じると店舗のスタッフにも負担がかかるので。
あ、あの(『ワルプルギスの夜からの脱出』で壇上にいた)ミサトさんは、特別に雇った役者さんではなく、店舗のスタッフさんなんですか???
普段は案内をしたりアイテムを渡したりするスタッフで、そのなかからなるべく演技の上手い人を…ということでやっています。
突然の学祭感。すばらしい演技でした。「とてもミサトさんを犠牲にはできない」という空気でした。リアル脱出ゲームにおいてお客さんを「世界観」へ引き込むコツ…みたいなものってあるのでしょうか?
「リアル脱出ゲーム」は、もともと基本的に「謎解き空間」というより「物語空間」と捉えているんですね。
ああー、いいセリフだなー。
お、ありがとうございます。基本的に「謎解き空間」というよりは「物語空間」と捉えていて…、
あ、2回言わなくてもOKです。
はい。なので、最初から「『魔法少女まどか☆マギカ』の世界へ入り込むためにはどういう体験がいいかな」という考え方なんですよね。それが上手くいったときによいコラボになるんだと思います。いまの武智の話で「謎はあとからでもなんとでもなる」というのもそうで、もちろんそういうタイプのリアル脱出ゲームもあるんですが、やっぱり「このタイミングでキュゥべえからあのセリフを言われたら嬉しいよね」だとか、「自分がもしこの場にいたらこういう選択を選びたいよね」というところから作っていくのが、コツというか、オーソドックスなやり方だと思います。
いい話だなあ。今回はそれがすごくうまくいったと。
今回は特別うまくいったと思います。毎回これくらいうまくはいってないんじゃないかなあ。
「好きなキャラクターと一緒に世界を救うのは楽しい」
これは他のコラボ作品にも言えることだと思うんですが、たとえば『魔法少女まどか☆マギカ』を見ていても、あるいは『進撃の巨人』を読んでいても、その作品がそれなりに好きでも「自分もこの作品世界に入ってみたい」と思う人って、それほど多くないと思うんですよね。もちろんそういう人もいるでしょうけれども、多数派ではないと思うんです。『魔法少女まどか☆マギカ』なんて主要キャラクターは14歳の女子中学生だし、進撃だって仲間がバタバタ死んでいくし。でも本作品も含めて、リアル脱出ゲームとコラボしてその世界観に実際に入ってみると、「あ、わたしって、この好きな作品の世界に自分で入ってみたかったんだ」、「自分が好きな作品の世界に入っていってキャラクターと一緒に世界を救うって、こんなに楽しいんだ」と気づくんですよね。これってすごいことだと思うんです。加藤さんは、「そういう需要がある」と最初から気づいていたんでしょうか?
これはSCRAP創業以来の社是でもあるし、そもそもぼくは「いつか机のひきだしからドラえもんが出てくるはず」と思い続けて大人になった人間です。ズッコケ三人組も特別な能力がなくても周囲で次々に事件が起こるわけで、自分にもそういう運命がやってくると信じ続けているわけです。
す…すごい「主人公力」ですね…。
はい。『グーニーズ』を見たあとは「うちに屋根裏部屋はないのか」と親に聞いて「マンションだからない」と言われて、「そうか…ないのか……」と落ち込んだし、好きな本は『はてしない物語』で、本の中に入り込む話です。「きっと自分の人生でああいうことが起こる」と信じていたんですね。少年探偵団も作ってましたし。
いつか怪人と対決する予定だったと。
もちろんです。
多くの人は、子供の頃にはそう思えても、成長していくにつれて忘れてしまうか、どこかのタイミングで「ムリだよなあ」と諦めるわけじゃないですか。それを加藤さんは思い続けられているわけですね!
ええと、はい、そう言われると急に恥ずかしくなるんですが…。特に疑問もなく「いつ始まるんだろうな」と、いまも思っていたりします。
そうですね。いつでも勇者に任命される準備は出来ているぞと。
(おお、ここにも)
なんかこう、タイムマシンの穴のようなものが目の前に出現したら、躊躇なく入るタイプですね。
あの…だいぶ会社(SCRAP)も大きくなったみたいですし、そういう穴を見つけても、もうちょっと慎重になったほうが…。
罠かもしれませんしね。
(いやそういう意味では…)
これからの展望について
あの『ワルプルギスの夜からの脱出』についてもう一点だけ。SCRAPさんは同一作品と何度かコラボすることがありますよね。この『魔法少女まどか☆マギカ』とのコラボも、次回作をお作りになる可能性はあるんでしょうか?
うーん、どうだろう…。もちろん「次回作やってください」という声があるかとか、今回の公演は全国で開催されるので…。あと結構、やれることは全部詰め込んだ感じはするので、テイストは変わるかもしれませんが、作りたいとは思っています。
この公演にたくさんお客さんが入れば!!
それはほら、たらればさん次第ですよ。たらればさんのフォロワー全員(19.6万人)が来てくれれば次回作はあります。
責任が重いなー!
20%でいいです。20%が来てくれれば次回作開催決定です!!
なんでリアル脱出ゲームは面白いのか?
すごくばっさりした質問で恐縮なんですが、リアル脱出ゲームはなぜこんなにヒットしたんだと思いますか? すごいスピードで多くの人の心をとらえましたよね。
うーん、いろいろな要因があるとは思うんですが、1つあるのは「不安からの揺り戻し」かなと思います。ものすごい勢いでデジタル化が進んで10年くらいたって、すべての物事が画面の向こうで起こって、いろいろなものがバーチャルになっていく中で、「このままでいいのかな…?」と感じている人が多いなかで、行くところまで行った振り子がアナログに戻ってくるような動きに、リアル脱出ゲームが乗っかった気はしています。
ふむふむ。
15年前に生まれたこのゲームが、最初の1年くらいでお客さんを1万人くらい集めてばーんと昇っていったのは、そういう「揺り戻し」が大きいんじゃないかなとは思います。ただそこから今まで続けてこれて、徐々に広げていけたのは、先ほども言ったように「みんな物語の中に入りたかったんだな」という根強い欲求を捕まえられたからだとは思っています。
根強い欲求。
そういう「物語の中に自分も入りたい」という欲求って、わざわざ口に出すようなものではないじゃないですか。ぼく自身もそういう話をそこらじゅうでするわけではないですし。なによりそういう欲求って、従来はいわゆるオタクと呼ばれる人たち、「物語を深く愛する人」だけが持つものだと思われていた感じですよね。
あああ、なるほど、リアル脱出ゲームの成功の要因のひとつは、オタクの民主化もあるんですね。みんな「自分はオタクだ」と言っていいようになった時代の空気の変化。
そうそう。本来はど真ん中にいる「深い人」が没入しているだけだったものが、それを遠巻きに見ていた人も、実は「入れないだろうな」と思っていたから遠巻きに見ていただけだったけど、「あ、入れるんだったら自分も…」というふうになった。そういう人がたくさんいたんだなあ…と。これが「なぜリアル脱出ゲームがヒットしたんですか」という問いへの定型文の回答ですね。
なるほどなあ…。「定型文」ということは、上記以外の、なにか別の回答もあるんでしょうか?
そうですね、そのほかにも細かい要因はたくさんあると思っていて、たとえば「大人の部活」ってほとんどなかったですよね。仕事が終わったあとで遊びに行こうってなったときの選択肢って、飲み屋だったりカラオケだったりボーリングだったり映画だったり、いろいろあるとは思うんですけど、それってここ30年くらい更新されていないでしょう。より食事の美味しい居酒屋が出てきたり、より綺麗なカラオケが出来たりはしたけど、本質は変わっていない。街での遊び、空間のエンターテイメントが更新されていなかったんですよね。ぼくはそこに憤っていたし、何か新しいものが必要だと思っていました。そういう需要にリアル脱出ゲームが応えたというのはあると思います。
たしかに。リアル脱出ゲーム、「知的」ですしね。頭と体と両方使うし。
そうなんですよ。周囲に「最近これにハマってるんだ」って言いやすいし。
それと、やっぱり「遊びといえばデジタル」という傾向がありましたよね。だから「遊びが進化するならデジタルで」という空気があって、そうなるとアナログの遊びがよりいっそう画期的な進化が起こりにくかったんだろうなと思います。そういう意味でも「揺り戻し」ということだったんだろうなとも思うし。
ふむふむ。
もともと「脱出ゲーム」ってデジタル(フラッシュゲーム)だったわけで、それがある程度浸透していて、「え、そこにアナログで入っていけるの?」という驚きもあったんだろうなと思います。
正直「ちぇ……」と思ってる
ここ数年、リアル脱出ゲーム自体に変化ってありましたか?
うーーん……ここ1~2年でいうと、「リアル脱出ゲームは変わりきれなかったな…」という思いがあります。その最大の理由はもちろんコロナ過なんですけども、実際にお客さんをお店へ集めることが出来なくなったことで、「まったく新しいことを試す余裕」というものがなくなってしまった。その結果、「何度も来てくださるリピーターのお客さんの比率が増えた」という結果になっていて、それはつまり「新規のお客さんが入ってきてくださる比率が減った」ということなんだろうなと思います。
ううーん、なるほど。
そのいっぽうで、デジタル方向、「オンラインリアル脱出ゲーム」というなかなか矛盾をはらんだネーミングなんですけども、この1~2年でいくつかオンラインの作品をリリースできて、そのなかに傑作が生まれたなとも思っています。たとえば彼(武智氏)が作った『STEINS;GATE』とのコラボ作品である『繰り返す死の運命からの脱出』はものすごく洗練された論理パズルを、論理パズルだと思わないまま物語の中に入って楽しめる傑作だと思っています。
『繰り返す死の運命からの脱出』https://realdgame.jp/steinsgateonline/
あー、未プレイです。やります。これは来週末の楽しみが出来たなあ。
ありがとうございます。先ほどの話で言うならば、デジタルに寄りすぎた振り子を我々がアナログに戻したのであれば、我々はアナログで培ったノウハウをもって再びデジタルへ向かう振り子に乗れるのではないかなと思うわけです。
ふむふむ。
それと業界全体の話でいうと、我々がリアル脱出ゲームのデジタル化に成功したことで、全体的にデジタル上でのリアル脱出ゲームへの参入障壁が下がったんですよね。これまで謎解きイベント制作会社って、文字通りイベントをやらなければいけなかった。場所を借りてスタッフを雇ってチケットを売ってお客さんをどこかに集めなきゃいけなかった。けどデジタル上であれば店舗がなくてもできるし、スタッフがいなくてもデジタルの知識があれば作れるようになった。そっちのほうが活性化したなという認識はあります。
市場を作ってますねえ。
いやまあライバルが増えているので、正直「ちぇ…」と思ってますけどね。
「ちぇ」。なるほど。最近、「謎企画」をよく見かけるようになりましたよね。そういう企画のポスターやWebサイトを見かけると、「この企画はSCRAPさんかな? 違うのかな?」と一番下までスクロールしてから内容を見るようにしています(苦笑)。
あ、僕もそうしてます。
代表も。SCRAPさんと他の「謎団体」との違いって、どんなところにあるとお考えですか?
うーん…先ほどの話と似てしまいますが、僕らって自分たちを「物語集団」だと思っているんですよね。「謎集団」ではなく。謎を作って解いてもらいたいわけではなく、お客さんを物語の中に入れたい。そういう目的の違いは大きいと思います。
「マイムマイムよかった」ばっかり書かれたアンケート
いま話していて、わたし自身が初めて「リアル脱出ゲーム」に参加した頃のことを思い出しました。もう10年以上前なので「どんな謎を解いたか」というのは忘れてしまったんですけれども、「チームのみんなと一緒に宝箱をひっくり返して、床に散乱したカラーボールを、またみんなで拾い集めたな」だとか、「影絵で犬を作ってプロジェクターに映したな」だとか、そういう「シーン」は覚えているんですよね。頭に焼きついている。
初期のイベントって、なにかボタンを押すと部屋に「テッテッテレレ♪ テッテッテレレ♪」と音楽が流れて、やたらとマイムマイムを踊ってもらうパターンがありましたよね。
あったあった! 踊らされた! めっちゃ踊りましたよ! 見知らぬチームメイトとマイムマイム!!
終わったあとのアンケートを見ると「マイムマイムがよかった」、「よかったのはマイムマイム」、「久しぶりにマイムマイム踊った」とずらずら書いてあるんです。
実はわたしたちはマイムマイムが踊りたかったんだと気づかされたと(苦笑)。
そうそう。「こういうことなんだな」と思いました。マイムマイムを踊れば箱が開いたり鍵が落ちてきたりすることって、ほかにないんですよね。そういう体験の質を高めることで、この15年間やってこれたんだと思っています。
「謎」というと一般的には「頭を使うもの」だと考えがちだと思うのですが、リアル脱出ゲームの場合は体も使いますよね。それから会場に流れる音楽(BGM)も、世界観を形作るうえで重要な要素だと思っています。そういう、謎に「体」や「音楽」を使うことって、加藤さんがミュージシャンでもあることと関係しているのでしょうか?
あー、ぼくはリアル脱出ゲームは「フェス」だと思っているところがあるんですね。
フェス。音楽フェスですか。
そうです。これはちょっとキモい話かもしれないんですが、以前友人たちと「フェスとライブってどう違うんだろうね」と議論したことがあって、その時に「ステージがいっぱいあるのがフェスだよね」という結論になりました。ひとつのイベントで、どれだけたくさんのミュージシャンが出演していても、ステージがひとつだったらそれは「ライブ」で、逆に数組しかいなくてもステージが複数あればそれは「フェス」だ、と。そう勝手に定義したんですね。
ふむふむ。
いろんなステージがあって、「どうしよう、どこを見に行こうか」と迷って、後悔したくないから一所懸命考えて、その時に過剰にアドレナリンが出て「楽しもう!」というスイッチが入ると思うんですね。そういう感覚をリアル脱出ゲームに持ち込みたかったというのはあります。
なるほどー。リアル脱出ゲームが「スタート」ってなったときに、テーブルの上に封筒の中身をザラザラッと開けて、たくさん出てきたカードを見て「さあどれから解こうか!」となる瞬間ですね。たしかにあの瞬間、脳内に何かがドバっと出ています。
まさにそのとおりです。ぼくは昔から音楽フェスティバルの企画をしてきたんですが、「どうやればお客さんに興奮してもらえるか」と考えるのは音楽の得意分野ですから、そういう「感情の動かし方」は音楽をやっていたことが関係していると思います。
歴代のリアル脱出ゲームで思い出深いものは?
そういえばいきなり話が戻るんですが、いま公演中の『ワルプルギスの夜からの脱出』も音楽が特徴的ですよね。『魔法少女まどか☆マギカ』本編も音楽が非常に印象的で、それはもちろん梶浦由記さんの力だと思うんですが、その世界観をリアル脱出ゲームに反映しようとしたときに、「音楽にも力を入れよう」という意識は、企画当初からあったのでしょうか?
うーん、どうだろう。ただスタッフの山崎という人間と『コネクト』(作詞・作曲/渡辺翔、編曲/ 湯浅篤、歌/ClariS)は外せないよね、とは話していました。
「『コネクト』は外せない」。たしかに外せませんね。
えー、でもあれ、ほむらちゃんの曲でしょ?
ははは、でもあれ、最終話まで見るとまどかの曲だって思うんですよね。
えええーー、「交わした約束、忘れないよ…」、あ、本当だ。
そうなんですよ、「永遠にほむらちゃんとの約束を忘れないよ」ともとれて、そういう解釈のひっくり返りが2回とか3回とかあって。
すいません、わかりました、インタビュー進めましょう。
いやいや居酒屋っぽくていいじゃないですか。ビール飲みたくなってきた。
それで、ええと、『コネクト』も含めて、音楽は『ワルプルギスの夜からの脱出』にもぴったり合っていると思っているので、使わせてもらおうとは、最初から考えていました。
なるほどなあ…。ところで、加藤さんと武智さんに、歴代のリアル脱出ゲームで思い出深い作品をひとつずつ挙げていただけますでしょうか。ちなみにわたしは『君は明日と消えていった』です。
『君は明日と消えていった』https://mysterycircus.jp/kimiasu/
うーん、ひとつか…。それだと、これまで「物語体験」と何度か言ってきましたが、それがひとつ結実したなと思ったのは、『宇宙兄弟』とのコラボ作品『月面基地からの脱出』です。さっき武智くんが「お客さんが泣き崩れるところが見たい」と言ったように、我々はお客さんの心が大きく動くところが見たいと思っていて、あの作品を作る時にコルクの佐渡島さん(『宇宙兄弟』担当編集者)から「お客さんが泣き崩れるようなシナリオに出来ませんか」と言われて、承知しました、作りましょう、と言って作った作品です。
https://realdgame.jp/event/post_3.html
たしかにあれはすごいシナリオでした。
あの作品は自分がずっと立てていた仮説が正しいと確信できた作品です。
武智さんはどうですか。
うーん、この『ワルプルギスの夜からの脱出』は、自分にとってはひとつの到達点かなと思います。お客さんにいろんな感情を持ってもらえることができたなあと。これは昔の話なんですが、僕がお客としてリアル脱出ゲーム作品に参加した時のことで、そのゲームは「誰かチームのひとりが犠牲になればみんなが助かる」というシナリオで、僕が犠牲になることになったんですが、その犠牲になる人が集まる部屋にがちゃっと扉を開けて入ったら、中の参加者が笑ってたんですよね。
これから仲間のために犠牲になるのに。
そうです。悲壮な覚悟で犠牲になることを決意したのに、笑っていた。これはその(笑っていた別の)お客さんのせいではなくて、「入り込ませられなかったんだな」と思ったんですよね。それはよくないと、自分でやるならちゃんとお客さんに悲壮な顔をしてもらおうと、そういう気持ちをこの『ワルプルギスの夜からの脱出』に込めました。
「チーム戦」の難しいところもありますよね…。どこまで入り込んでいいのか、テンションが難しかったりするじゃないですか。初対面だし、照れもあるし。「自分だけ役柄に完全にシンクロして突っ走るのもどうかな」と思っちゃうこともあるだろうし。
飲み会みたいな感じですよね。「謎」がお酒で。「この酒、おいしいよね」という話があってもいいんですけど、主役はあくまでもお客さん同士の交流なわけでしょう。
ああ、いい話だなあ。「謎」は潤滑油なんですね。
そうですそうです。謎は最低限の共有言語であって、それを通して仲良く楽しんでほしいなあと。
ひとりでベロベロに酔っ払っちゃったらダメなんですね。
ははは、いやまあ酒(謎)だけを本気で楽しみに来てもいいですし、そういうお客さんにも楽しめるくらいの謎は用意したいんですけど、我々が狙うのは、これを中心とした交流だよと。
最後に、リアル脱出ゲームはこの先、どういう方向へ進んでゆくんでしょうか。
うーん、この手の質問はいつも同じ答えをしてまして、それは「いまできる一番面白いことをやっているんです」ということなんですよね。
いまできる一番面白いこと。
15年前に15年後のいまの姿を考えていたわけではないし、3年前にも3年後のいまのことを考えていたわけではなくて、その時その時で精一杯楽しいことをやっていたんですよね。だからこれからも、今できることで一番楽しいことを、一番楽しいやりかたで届けることが一番だと思っています。いつだって最先端なわけですから、明日、楽しいことができるようがんばる、という感じですね。
大丈夫ですか、それなりに会社、大きくなってると思いますけど、そういう「いま」ばっかり見ている人に付いていくのって大変じゃないですか?
そう…です…ね、わりと「はい」としか言えないというか(笑)。
こ…これからも応援しております!! がんばってください!!
寄稿/たられば @tarareba722