『魔界レストラン ナイトメリアからの脱出』舞台演出監修の小栗了さんインタビュー記事
#ナイトメリア #レストラン脱出 #小栗了 #東京ミステリーサーカス #飛田恵美子 #魔界レストラン
公開日:2022/04/19
これまでにない「ショー×謎解き」公演。演出で大事にしたことは? 『魔界レストラン ナイトメリアからの脱出』舞台演出監修・小栗了さんにインタビュー!
愉快なモンスターたちが歌い踊り、来場者を魅了するーー4月21日から始まる『魔界レストラン ナイトメリアからの脱出』は、ショーを楽しみながら脱出を目指す、新しい形のエンターテインメントです。
来場者参加型の着ぐるみショーをメインに据えた謎解き公演を制作するのは、SCRAPとしても初めての試み。クオリティの高いショーに仕上げるため、ムーミンバレーパークのキャラクターショー『エンマの劇場』の演出等を手掛ける小栗了さんに舞台演出監修を務めていただきました。
このインタビューでは、これまでにない「ショー×謎解き」公演を監修するにあたって、小栗さんがこだわったことや大事にしたことを教えていただきます!
小栗了(おぐり・りょう) 演出家、舞台監督。
1976年東京生まれ。俳優として蜷川幸雄演出舞台『間違いの喜劇』や映画『イントゥ・ザ・サン』などに出演した後、演出家に転向。2007年からシルク・ドゥ・ソレイユシアター東京の立ち上げに携わり、日本スタッフ代表を務めた。ムーミンバレーパーク『エンマの劇場』『サウンドウォーク』、『DINO-A-LIVE PREMIUM TIME DIVER 2021 MESOZOIC ODYSSEY 中生代への旅』などの演出を手がける。
脚本をさらっと読んでテストプレイに参加したけれど……
————小栗さんは、リアル脱出ゲームのことはご存知でしたか?
はい! 僕の会社の元社員で、2011年まで一緒にシルク・ドゥ・ソレイユの仕事をしていた伊藤靖忠さんが、いまSCRAPさんの美術チームで働いているんです。だからずっと話は聞いていましたし、あるときよく出入りしていた吉祥寺のゲームセンターが潰れてSCRAPさんの店舗になっていて、「うわーやっさん(靖忠さん)の会社だ、すごい人気なんだな」と思いました。
————リアル脱出ゲームを体験されたことはありますか?
コロナ禍になってやっさんから「今度新しい公演があるから来る?」と誘ってもらい、『ある沈黙からの脱出』に参加しました。喋っちゃいけなくて、ジェスチャーとかを駆使しながら謎を解くという公演です。おっさん4人で参加してクリアできなくて、反動でお店を出てからずーっと公演の話をしていました。やってみると想像以上におもしろいですね!
「飛沫の飛ばないリアル脱出ゲーム」として企画された公演『ある沈黙からの脱出』は現在もリアル脱出ゲーム吉祥寺店で開催中!
————今回のお話が来たときの感想を教えてください。
今年の頭にやっさんから電話で「こういうのがあるんだけど、どう?」と相談があって。ちょうど自分の舞台が2月にあったから(※シラーの戯曲『群盗』。演出・小栗了、主演・小出恵介)、「3月からなら大丈夫」と答えました。そのときはまだ具体的なことは何もわからなかったけど、やっさんにはシルク・ドゥ・ソレイユの仕事で本当に苦労かけたし世話になったから、引き受けないという選択肢はなかったですね。
————企画内容を聞いて、どんな印象を抱きましたか?
最初は「ミュージカルっぽいものを入れたいから手伝ってほしい」とざっくりとしか話を聞いてなくて、コンテンツディレクターの後藤沙絵子さんと打ち合わせして初めてキャラクターショーだと知ったんです。そこでやっと、「なるほど、だから俺に話が来たのね!」と納得しました(笑)。
————その後、テストプレイに参加されたと伺いました。
はい。見学するつもりで行ったらその場で参加することになって、「おお?」となりました。事前に脚本を渡されていたんですけど、アクティングの部分以外はさらっとしか読んでいなかったのでよかったです。ただ、一応全部目を通していたはずなのに、やってみると全然解けなくて! 同じチームの人に任せきりでした。それでもすごく楽しかったです。沈黙の公演とはまた全然違っていて、SCRAPさんの謎の作り方や創造力は本当にすごいなと圧倒されました。
「キャラクターの目が据わっている」ように見せないためには?
————今回、監修を務める上で目指した方向性はありますか?
正直に言うと、僕が入った時点で後藤さんがちゃんとしたベースを作っていたので、僕はほんのちょっと手伝ったくらいなんですよ。脚本やテストプレイを見て「できてるじゃん!」と思いました。音楽も歌もよかったし、途中挟まれるリズム天国のようなショーもすごくおもしろかったので。僕がしたのはほんとに細々したアドバイスというか、完成したナポリタンにチーズをかけて、ちょっとタバスコ落としたかな、程度です(笑)。
————その、チーズやタバスコのところを伺いたいです!
たとえば、ステージは360度お客さんに囲まれているんですが、テストプレイのときはキャラクターが僕の座っているテーブルを全然見てくれなかったんです。お客さんは同じ参加費を払って非日常を体験しに来ているわけなので、なるべく平等に楽しめるようポジショニングを調整させていただきました。
また、キャラクターって間ができやすいんです。生身の人間だと舞台袖から中央までさっと移動できるけど、キャラクターはそんなに早く動けないから、テクテクテクテク……と変な間が出てしまう。そういう間がお客さんの気持ちを萎えさせてしまうんですね。キャラクターが苦手という方は結構いますが、理由を聞くと「何が怖いって、目が据わっていること」だと言います。目が据わっているように見えないようにするには動きや声をつけないといけません。
だから後藤さんには、声優さんの声を収録するときに、「あ!」とか「ん?」とか「うっ」といったちょっとした声を録っておくといいですよとお伝えしました。こうしたキャラクターショーは事前収録が基本ですが、人気声優さんを起用すると「ここの一時間しかスケジュールが合わない」なんてことはザラにあります。声をあててみて後から「この間を埋める声がほしいな」と思っても、録り直しができないんですね。そのため、収録時に「間をつなぐ言葉」を録っておくことが大事なんです。
————それは経験がないとなかなか気づけないことですね。
僕も最初にキャラクターショーを手がけたときはわからなくて、少しずつノウハウが蓄積されていきました。そういった視点から、たとえばキャラクターが転んでしまったときどうするかといったイレギュラー対応も考えましょうと提案しました。1日に数公演もあると、必ずイレギュラーは起こります。でも、そこでモタついてしまったらお客さんは白けてしまう。だから実は、ちょっと脚本を書き直してもらったところもあるんです。
————それはどういったところですか?
グイドの部下でジョーシュというモンスターが登場するのですが、彼女は着ぐるみにせず、グイドが電話をするシーンで受話器を持ってもらったり、コミカルな掛け合いで動きを出したりしています。万が一グイドがよろけたりしても、彼女がサポートできる。そういったアシスタント的なキャラクターがいるといいですよとお伝えして、脚本に反映してもらいました。
キャラクターの演技やショーが謎解きを邪魔しないように
————「謎解き×ショー」という特殊な組み合わせの公演ゆえの難しさや、大事にしたことはありましたか?
ほんとに後藤さんの脚本がよくできていたので、その部分の難しさはありませんでした。そのなかで僕が大事にしたのは、「キャラクターやショーが謎解きの邪魔をしないこと」です。お客さんはやっぱり、謎解きを一番楽しみに来る方が多いと思うんです。キャラクターショーはそこにプラスオンする要素。制限時間もありますし、キャラクターの動きに変な間が多いと、お客さんはイライラして「もうショーはいいから謎解きを進めよう」と思ってしまうかもしれません。
そうすると後藤さんが実現したかった「ショー×謎解き」の醍醐味が失われてしまうので、謎解きの邪魔にならない範囲で「魔界レストランでモンスターたちのショーを楽しんだ」という満足感が出るよう、細部の演出を詰めていきました。
————後藤さんが、「小栗さんは常に謎解きを念頭に置いてアドバイスしてくれた」と話していました。
僕は演劇もやるし、クラシックもやるし、格闘技もやるし、キャラクターショーもやるし、恐竜もやるし、とさまざまなことをやるタイプなので、自分のスタンスを貫くのではなく、そのときそのとき求められていることを把握したうえで提案するようにしています。とくに今回は、勝手に突っ走って「なんだあいつ」となったら紹介してくれたやっさんの顔を潰すことになってしまいますし。
演出家にもいろいろなタイプがいて、自分の芸術性を追求してエゴを貫いて、ある意味お客さんを置いてきぼりにしちゃう方もいますが、僕は観に来てくれたお客さんが「楽しかった!」と満足して帰っていくことを一番大事にしています。SCRAPさんもアート集団ではなくエンタメ集団なので、そのあたりの姿勢は共通しているように感じました。
SCRAP美術マネージャー・伊藤靖忠さんと。
————本公演の制作を通して印象的だったことはありますか?
「謎解き×ショー」は可能性があるなと思いました。それこそ劇場でやってもおもしろいんじゃないかな。実際に、舞台の最後に「犯人はどっちだ!?」とお客さんに選ばせるような公演をつくっていた劇団もあります。ただ、お客さんが移動できるようなつくりの劇場って少ないし、ハードルが色々あるんですよね。「自由度がある会場でできるなら、いくつもの部屋を進みながら物語が進んでいくような仕掛けもいいな」なんてことを、テストプレイのあとに勝手に想像していました。
2017年に幕張メッセで竹取物語をモチーフにしたフェスの演出をしたときは、イマーシブシアター(没入型劇場)の手法を取り入れ、平安時代の人が歩いている中を来場者が歩けるようにしました。ニューヨークにビル一棟を使った「スリープ・ノー・モア」という公演がありますが、そんなふうに建物一棟まるごと使ったイマーシブシアター的な謎解き公演ができたらおもしろそうですね。
————SCRAPでもイマーシブシアターには注目していて、いくつかの公演に取り入れています。小栗さん演出でゼロから一緒につくったらおもしろいものができそうですね。
ぜひ! ただ、僕は謎が作れる賢さはないので、そこはSCRAPさんにお願いしたいです(笑)。
————『群盗』関連のインタビューで、「2021年は何でもやる年と決めていろいろ始めた」とおっしゃっているのを目にしました。2022年はどんな年にしようと思っていますか?
引き続き、何でもやろうと思っています。SCRAPさんもきっと苦労されたと思いますが、コロナ禍でエンタメ業界はズタズタになりました。演劇はだいぶ戻ってきてはいますが、企業の表彰式などのイベントはまだ自粛傾向が続いていて、そうした仕事をしていたイベント会社は本当に大変です。そうした社会情勢のなかでも仕事ができること、仕事を依頼していただけること自体がとてもありがたいと思っているので、なんでも挑戦していくつもりです。
————最後に、本公演に関心を持っている方へのメッセージをお願いします!
リアル脱出ゲームファンの方はSCRAPさんの新しい一面やチャレンジ精神に触れることができるし、リアル脱出ゲームが初めての方は謎解きをベースに異世界を味わえる公演になっていると思います。会場の東京ミステリーサーカス自体も、「変なところに連れてこられた」感を味わえる場所ですしね。そういった点も含めて楽しんでいただけると思うので、ぜひ参加していただけるとうれしいです!
『魔界レストラン ナイトメリアからの脱出』
『魔界レストラン ナイトメリアからの脱出』は、2022年4月21日からリアル脱出ゲーム吉祥寺店で開催します。小栗さんの「チーズとタバスコ」により、だれもが時間を忘れて楽しめる極上のエンターテインメントに仕上がりました。ぜひ、リアル脱出ゲームの新境地を味わいに来てください!
特設サイトはこちら:https://realdgame.jp/makai-restaurant/
(インタビュー、撮影/飛田恵美子)
https://www.scrapmagazine.com/author/hida/