「4年前の内容を解明するリアル謎解きゲームでした」。リバイバル公演『最終兵器工場からの脱出』コンテンツディレクター・染川央インタビュー
公開日:2018/12/26
「そのロボットが目覚めたとき、世界は終わる」——。
2014年に大阪を震撼させた「最終兵器」が、4年の眠りからいままさに目覚めようとしています。
先日、12月20日に開催された東京公演を皮切りに、大阪、岡山、群馬、横浜、札幌、名古屋、埼玉、福岡など数都市で復活公演を行う『最終兵器工場からの脱出』。なぜいま復活することになったのでしょう。そして、本公演の特徴や見どころとは? SCRAPの名コンテンツディレクター・染川央に、4年前の記憶を辿りながら話してもらいました!
染川央(そめかわ・おう) SCRAPコンテンツディレクター
2009年、『夜の学校からの脱出』でのボランティアをきっかけにSCRAPに関わるように。ブログやマンガの執筆、公演の司会、アジトオブスクラップ京都・大阪ヒミツキチの店長を経験した後、コンテンツディレクターとなる。『大迷宮バハムートからの脱出』『巨人に包囲された古城からの脱出』『シン・ゴジラからの脱出』などヒット作多数。
「大阪でしか遊べない公演」にしたくて、ずっと全国ツアーを断っていたけれど
7日間で人類を滅亡させる脅威を備えた最終兵器。工場に潜入した特殊部隊の一員であるあなたは、さまざまな謎を解き明かし、最終兵器を破壊しなければいけない……!
————『最終兵器工場からの脱出』は、2014年の年末に大阪ヒミツキチで2か月間だけ開催された幻の公演ですね。なぜ今回、復活することになったのでしょう?
染川 いま、SCRAPでは過去の公演に光を当ててどんどん再演しているんですが、『最終兵器工場からの脱出』はまだ再演されていませんでした。代表の加藤から「お前まだ再演していないやつ持ってるよな」と言われて、「ついにあのパンドラの箱を開けてしまうのか……!」と(笑)。
————どうしていままで再演されてこなかったのですか?
染川 だいぶ話が遡るんですが、『最終兵器工場からの脱出』は、「大阪オリジナルの公演をつくろう」という想いから始まった公演なんです。SCRAPの本社は元々京都にあって、リアル脱出ゲームも京都で制作していたし、毎年オリジナルの新作公演を大阪のHEPHALLで発表するのが通例のようになっていました。
でも、2014年に本社が東京に移転して、その前後で謎を作れる人もみんな東京に行っちゃったんです。ちょうど僕がアジトオブスクラップ京都から大阪ヒミツキチに異動になったタイミングでした。僕の代で大阪オリジナルの公演がついえてしまうのは嫌だなと思って、自分たちで作ることにしたんですよ。
そんな経緯から生まれた公演だから、当時は「全国ツアーしようよ」と言われてもずっとつっぱねていて。「いつかは」という気持ちはありつつ、「関西に来ないと体験できない」という特別感を持たせたかったんです。そのうちに声がかからなくなり、長い間日の目を見ずにいたんですね。
————今回は大阪だけでなく全国での公演となりますが、考えが変わったということでしょうか。
染川 やっぱり、「せっかく自分たちのつくった面白い公演をより多くの人に遊んでもらいたいな」「最終兵器を全国の人に知ってもらいたいな」という気持ちは強くあって。
それと、関西への思い入れはもちろんいまもあるんですが、「昔作った公演を大事に守るよりも、新しいものを作っていけばいいじゃん」と考えるようになりました。実際にいま、『魔王城からの脱出』シリーズの新作を京都チームがつくっているところです。
脚本も、謎も、美術も、声優も、大阪ヒミツキチのスタッフで
————4年前に制作した当時のこと、覚えていますか?
染川 いまのSCRAPは、謎を考えるコンテンツチーム、美術チーム、運営チーム、広報宣伝チームと部署が分かれていて、それぞれに意見を出し合いながらひとつの公演をつくっていくんです。でも、『最終兵器工場からの脱出』は、大阪ヒミツキチのスタッフで全部行いました。
脚本も謎も自分たちで考えたし、備品もDIYしたし、ポスターも作ったし。声優も自分たちで担当したんですよ。大阪ヒミツキチにマイクを持ち込んで、スタッフがセリフを読んで。だから音も割れまくりだったんですが、当時はそれがかっこいいと思っていました。いま振り返ると、かなり無茶やっていたなぁ(笑)。
————制作時にこだわったことを教えてください。
染川 その頃のリアル脱出ゲームって、そんなにストーリーに重きを置いていなかったんですよ。オープニングやエンディングの映像も1分あるかないかで、シンプルな内容で。僕はストーリーで語れる脱出ゲームを作りたいなと思って、映像の尺を長くして世界観を掘り下げました。
もしかすると、オリジナル公演で全編アニメキャラが喋るのって『最終兵器工場からの脱出』が初だったかもしれません。『宇宙怪獣からの脱出』制作チームから「先越された〜!」と言われたのを覚えてます。
物語の舞台も「銀行」や「学校」といった現実に即したもの、「魔女がいる森」といったファンタジー要素が強いものが多かったけど、初めてSFっぽい要素を持ち込みました。
————公演にはコンテンツディレクターの色というか好みが出るものですが、染川さんの作るものは……。
染川 『惑星オリオンからの脱出』に、『シン・ゴジラ』や『進撃の巨人』『ファイナルファンタジー』とのコラボなど、「男の子!」って感じのものが多いですよね(笑)。少年の気分が抜けていないのかもしれないな……。
————参加者の反応はいかがでしたか?
染川 当時の脱出成功率は10%で、楽しんでもらえたようです。
一番印象に残っているのは、有名テキストサイト「ろじっくぱらだいす」のワタナベさんが東京から体験しに来てくれて、アンケートに一言「これぞまさにリアル脱出ゲームの醍醐味を感じられる公演だ」って書いてくれたこと。
まさにそういうことを意識しながらしていたし、「関西を盛り上げたい」という想いから始まった公演だったから、東京からわざわざお客さんが来てくれて、満足してくれたことがすごく嬉しくて。「作ってよかった」とじーんとしました。
4年前のデータが残っていなかった……!?
————大阪公演と全国公演とで、変化した点があるそうですね。
染川 ストーリーや謎は基本的に変わっていません。でも、美術・装飾がグレードアップしました。関西チームが手描きしていたパネルがちゃんとした印刷になったり、映像で投影していたものが立体になったり、アイテムがより本格的なものになったり。
特に嬉しかったのが、当時は映像でしかなかったロボットの頭部が立体化して、中に入れるようになったこと。より迫力が出たと思います。美術チームが色々提案してくれたんですよ。声もちゃんとプロの声優さんに頼んでスタジオで録り直したので、音は割れていません(笑)。
宣伝チームが「女性客にも親近感を持ってもらえるように」とSDイラストを用意してくれたりと、自分にはなかったアイデアがどんどん出てきて、分業できるってすばらしいなと思いました。
————じゃあ、復活にあたっての苦労は特になかったのでしょうか。
染川 それが、当時のデータが全く残ってなくて! めちゃめちゃ苦労しました。ほかの公演は再演を見込んでデータを取っていたけど、『最終兵器工場からの脱出』は再演を考えてなかったので、僕のパソコンにしかデータを保存してなかったんですよ。自分でもどうかと思うんですが……(笑)。
古いパソコンから何とかデータを抽出して、でも残ってないものも多かったから、当時のスタッフから話を聞いて。「このときチェッカーは確かこんなことをしていたと思います」という証言を集めて進行を確認したり、当時ケータイで撮影した画素数の低い写真に写っている謎のシートを解析したり。本編とは別の謎解きゲームを繰り広げることになりました。
————何という切羽詰まったリアル謎解きゲーム……!
染川 本当に。でも、大阪メンバーがすごく協力してくれたことが嬉しくて。いまは分業制になっているし、彼らが謎解きから美術から声優まで務めた公演ってほかにないんですよね。みんなで文化祭前夜を一週間過ごしたようなものだったから、一際思い入れを持っていてくれたみたいで、「司会台本書き起こしますよ」って言ってくれたり。熱いな、ありがたいな、と思いました。
大阪でも再演されるので、ぜひみんなに見てもらいたいです。「俺たちが作ったあの公演が、こんなことになったぞ」って。
————染川さんにとっても思い入れがある?
染川 そうですね。これがきっかけで、「コンテンツチームに入りなよ」と声をかけてもらったんですよ。自分が店長からコンテンツディレクターに転身する契機となった公演なので、感慨深いです。それが、4年越しに全国ツアーを開催できるなんて。
ホール公演の原点が楽しめる公演
————これから参加される方へのメッセージをお願いします!
染川 オリジナル公演なので予備知識は必要ないし、ストーリーがどんな方向に転がるかわからないハラハラ感を味わえるはず。
それと、ストーリー性のある映像とか、謎を解くためのアイテムやギミックを多用していることとか、ホール公演の原点が楽しめる公演かなと思います。ここで試したことが、いまの公演につながっているから。
そういう意味では、リアル脱出ゲーム好きの方にも面白がってもらえると思うし、初めての方でも参加しやすいんじゃないかな。ぜひ最終兵器を破壊しに来てください!
<リバイバル公演・最終兵器工場からの脱出>
東京【原宿ヒミツキチオブスクラップ】
2018年12月20日(木)~2019年2月3日(日)
横浜【アジトオブスクラップ横浜】
2019年2月1日(金)~2019年2月24日(日)
大阪【大阪ヒミツキチオブスクラップ】
2019年1月11日(金)~2019年3月3日(日)
名古屋【ナゾ・コンプレックス名古屋】
2019年2月8日(金)~2019年3月10日(日)
福岡【アジトオブスクラップ福岡天神】
2019年4月5日(金)~2019年6月9日(日)
札幌【アジトオブスクラップ札幌】
2019年2月2日(土)~2019年3月3日(日)
埼玉【大宮ソニックシティ 国際会議室】
2019年3月2日(土)~2019年3月3日(日)
群馬【ベイシア文化ホール 展示室】
2019年1月19日(土)~2019年1月20日(日)
岡山【岡山シンフォニーホール イベントホール】
2019年1月13日(日)~2019年1月14日(月祝)
<特設サイト>
http://realdgame.jp/saisyuheiki/
(インタビュー・撮影/飛田恵美子)