僕らが社員旅行に行く理由
公開日:2020/01/10
会社ができて12年目になる。
最初は僕一人ではじめて、4年くらい経った時に10人になってた。
その頃は毎日が楽しくてしょうがなくて、思ってたよりも凄い事が毎日毎日起こってた。
今までの人生で出会ったことのないすごい人たちに出会えたり、
CMでよく名前を見る企業から連絡がきたり、
テレビに出たりラジオに出たり雑誌に出たり、
そしてどんなことをやってもどんどんお客さんが来てくれて
「次も楽しみにしてます」と言ってくれたり。
「今が一番楽しいのかもね」と僕はその頃社員に時々言ってた。
こんな凄い事がこれからも何年も続くなんて思えなかったから。
あまりにもたくさんの話が来て、それが全部すごくて面白くて、みんなで夢中でそれを形にしていった。
当然働きすぎてぼろぼろになった。
「なあ一回休んでみない?」と言って僕らはみんなでラスベガスに旅立った。
決算の直前で、どうやらとんでもない利益が出そうなこともそれを決めた理由の一つだった。
10人で行ったラスベガスは楽しくて仕方なくて。
みんなでご飯を食べ、カジノに行き、ショーを観て、ゲラゲラ笑った。
ラスベガスに向かう10時間以上の飛行機の中でも僕らはずっと興奮して話してて、一瞬で到着しちゃった。
夢みたいに楽しかった。
それで僕らはその2年後にももう一度ラスベガスに行った。
その時は25人くらいで行った。
相変わらず楽しかった。
海外の案件も増えていたころだったから、ラスベガスのベラージオってホテルで直接待ち合わせる社員もいたりして。
バラバラになって自由にみんなでラスベガスを楽しんだ。
話すことなんていくらでもあったし、やるべきこともいくらでもあった。
2回もラスベガスに行ったら山ほどエピソードがある。
パスポートを失くしちゃった奴や
バカラで全財産賭けて勝って大声で「グッバイラスベガス!」って叫んだ奴や
アメリカ人を部屋に呼んで仲良くしてたら財布盗まれた奴や。
今でも、当時のエピソードは飲み会の席で語られる。
そう。「あのころは楽しかったよなあ」というような文脈で。
あれから5年たって、そういえば社員旅行に行ってないことに気づいた。
社員・契約社員の数も150人を超えて、みんなで社員旅行に行くのも現実的じゃない。
全国に社員が散らばっているから、同じ場所から出発して同じ場所にたどり着くのも大変。
かかるお金の額が普通じゃない。
待っててくれるお客さんもいるのにお店だって休めない。
そんなことを思いつつ、なんとなく社員旅行なんて誰も言い出さないまま5年が経って、
ふと、今なんじゃないかと思った。
毎月何人もの人が入社してくる状況で、名前も知らない社員もポツポツいる。
誰がどこでどれくらい努力して苦しんで喜んでいるのかも完全にはわからない。
会社がどこを目指しているのかも全員が完璧に理解しているわけじゃない。
そんな状況の中で、今こそ僕らは社員旅行に行って、今なにを手にしていないのかを確認すべきなんじゃないかと思った。
あの頃はあったけれど、今はないものが何なのかを探す旅だ。
当時より今のほうがうんと凄いものを作ってる。
会社のシステムもちゃんとしてる。
優秀な人もたくさん揃った。
お客さんの数も、売り上げも利益も下がったことは一度もない。
どこから見てもうまくいっている今の会社の中で、たぶん失われたものがある。
それはうまく言葉にはできないんだけど、時代のはしっこに立って、何かを切り裂くように、
わけもわからず全員で嵐に立ち向かっていた5年前にはあったもの。
今だってそれぞれの場所でもちろん立ち向かっているのだけど、
当然ながら一致団結しながら、全員でゆるぎなく立ち向かってはいない。
部署が細分化され、地域も別れ、プロジェクト毎にチームが組まれる現状の中、
さて我々は今何を手にしていて、何を失ったのか。
我々が取り戻すべきものは何なのか。
そもそも取り戻すべきものなどあるのか。
もしあったとして、たった3日間シンガポールに行くだけで取り戻せるのか。
そんなことを考えつつ、
とにかく今、日本のSCRAPのすべての店舗を休業し、
全社員で旅に出てみようと思うのです。
5年ぶりに全員で何かに立ち向かってみる旅です。
獣の心を取り戻して帰ってきます。
SCRAP 加藤隆生
〈2020年2月3日~2月5日〉SCRAP店舗休業のお知らせ