こんにちは。SCRAP出版チーフのおおつかです。
6/24のリアル脱出ゲーム大パーティーの日に、ひっそりと発表した第1回SCRAP出版新人賞の結果。
改めてたくさんの応募ありがとうございました。
「テキスト+謎」という形式で募った今回の新人賞。
応募作品のテキストは推理小説、ラノベ、手紙とさまざまで、文体や設定にそれぞれ個性がありました。とはいえ、飛び抜けた描写力や魅力のある作品は少なかったように感じます。「謎」が必須の作品ということで、設定の魅力を説明・解説が消してしまっている惜しい作品も少なくありませんでした。
また、「謎」に関しては全体的に説明不足だったり解き筋がないものが大半でしたので、今回はテキストを中心に選考を進めました。
というわけで難航した審査の結果、入選1作品、佳作2作品を選出いたしました。まずは入選作の講評と作品公開を行います。
■入選
「どこかで聞いたことのあるような赤いキャンディと青いキャンディ」栖川剛
■作者プロフィール
栖川剛(すがわ・たけし)
1976年兵庫県生まれ。好きなリアル脱出ゲーム『マッド博士の異常な遺言状』。リアル脱出ゲームでは主にガヤ担当。たまに閃くこともあり。いつか直球で勝負したいと憧れる変化球人間。
■講評
主人公の独り語りであるテキストの読みやすさと、結末の意外性を評価しました。書きたいことがはっきりしていて、それがテキストにしっかり落とし込めています。謎に対して別解が存在するのは議論の対象になりましたが、小説としての読後感の良さの方を優先しての入選です。
選考委員:加藤隆生(SCRAP代表)、大塚正美(SCRAP出版チーフ)、SCRAPコンテンツチーム
「どこかで聞いたことのあるような赤いキャンディと青いキャンディ」栖川剛
「真理ちゃんへ。お祝いにパパの作った画期的な発明品を送ります。」
私はどこで今は何をしているのか分からない父親から届いた荷物を開けて、中に入っていた手紙の冒頭を声に出して読んだ。私には父親と母親はいるが、二人と顔を合わせることは滅多にない。前に会ったのは五年前だったと思う。寂しくないといえば嘘になるかもしれないが、物心ついた時から私の家の形態はこんな感じだったので、今となっては悟りの境地に達している。元旦も子供の日も夏休みに家族旅行にいくこともクリスマスに父や母が枕元にプレゼントを置いてくれることも大晦日に紅白を一緒に観ることもないけれど、毎年、誕生日前日に誕生日プレゼントだけは律儀に送ってくれているので私としては満足だ。(もちろんそれのどれもが私が心から欲している物ではないけれど、一人娘の誕生日を忘れてはいない、その気持ちが嬉しい)
詳しくは知らないけれど私の父親と母親は研究者であり、開発者だった。その仕事柄、プロジェクトに関わっている時は誰にも会うこともなく、ひたすらに研究所で黙々と開発をしているらしい。
送られてきた荷物の中には透明な瓶が二つ。中には飴玉ほどの大きさの青く丸い物と、同じ形の赤い物だった。ラベルには「十歳以下の子供の服用は禁ずる」と書かれてあった。艶があって美味しそうに見えるが、これはなんなのだろうか。服用を禁ずるってことはおそらくはサプリメントかもしくは薬なのだろうけれど……。私は手紙の続きを読む。
「これはパパとママが開発した老若飴です。名前は仮称です。赤いキャンディを一粒舐めれば五歳、歳を取ります。逆に青いキャンディを舐めれば三歳、若返る画期的な発明品なのです。どこかで聞いたような効果のあるキャンディみたいだけれど、その点はオマージュということで笑って許してくれれば幸いです。だいたい赤いキャンディも青いキャンディも世の中にはたくさんあるしね、てへぺろ。以前、君が早く十六歳になってパパとママの仕事のお手伝いをしたい、と言ってくれたこと、パパは凄く嬉しかった。だから君の為にこれを作ったのです。もちろん臨床検査も終えているので、安心して食べてもらっても構わないよ。味は赤い方がイチゴ味、青い方がソーダ味になっています。味付けはママの監修なのでパパが保証します。真理ちゃんはイチゴが大好きだったもんね、パパは憶えています。」
へえ……。私は赤い方の瓶の蓋を開けた。確かにイチゴの匂いがしてくる。しかし、なぜ一粒で五歳、歳を取るのなら、もう一粒の方で五歳若返るようにしないのか……私は思う。昔から父親にはそういううっかりとした一面があるのだ。その危うさが魅力的で私はパパと結婚することに決めたのよ、とママは惚気るけれど、私にしてみればそんな危うさはいらないと思うのだ。その危うさが手紙の次の一文にあった。
「けれどね、真理ちゃん。ここが一番肝心な注意点なのだけれど、この老若飴の効果は抜群だし、味も問題ないのだけれど、一つ危険な点があります。とてもデンジャラスです。マウスを使って実験したところ百パーセントの確率で爆死しました。ああ、とはいっても飴が爆発するとかそういう話ではないので安心してください。」
あと数分で誕生日を迎える娘を殺す気か……私は全力で手紙に向かって言う。
「実はこの老若飴は連続して同じ色の飴を食べることが出来ません。もちろん食べても構わないのだけれど、食べると間違いなく真理ちゃんはパパやママよりも先に天国に行ってしまうでしょう。それって親不孝以外の何物でもないからね、気を付けてください。」
いや、そんな怖いアイテムを送ってくることは子不幸ではないのか、私は思う。
「赤を食べた次は必ず青を、青を食べた次は必ず赤を食べるようにしてください。交互に食べなければ、その副作用が強烈で内部で化学反応が起こり、爆発するのは確実だからね。パパとママの計算が正しければ、五粒食べれば真理ちゃんが望んでいた年齢にあっという間になるはずです。」
パパとママのことを信頼していないわけではない。私はキャンディの入った瓶を見上げるようにして持ちながら思った。あの二人が言うのだから多分、食べれば本当に年老いたり、若返ったりするのだろう。それと同時に服用を間違えれば、確実に死ぬことも予想される。なんというアイテムを送ってきてくれたのだろうか。
うーん……。私は使うべきか使わざるべきか迷っていた。確かに小学生だった頃、パパにそんなことを言ったのは憶えている。両親との会話が極端に少ないから、そういう何気ない会話はけっこうお互いに憶えているものだ。子供の言葉にそこまで感銘を受けてこんな物を発明してくれるなんて、パパとママはなんて最高なんだろう。ここは娘としてパパたちの期待に応えなければならないような気がする。私は赤いキャンディを一粒手に取って口に入れようとした。
待てよ……。私はキャンディが口に入る瞬間に開けていた口を閉じる。薄い唇に弾かれた飴玉がテーブルの上に落ちた。
何も考えもせずに赤いキャンディを食べようとしたけれど、本当にそれで合っているのだろうか。赤の次は青を食べなきゃいけないし、ここは慎重に考えてみる必要がありそうだ。
Q
私が十六歳になるには一体、赤と青のキャンディを何粒ずつ食べなければならないのだろうか?
↓↓↓↓↓↓↓↓解答↓↓↓↓↓↓↓↓
【解答編】
まずは条件を整理してみよう。キャンディは赤と青を必ず交互に食べなければいけない。赤→赤、青→青では必ず死んでしまう。赤いキャンディは一粒で五歳歳をとって、青いキャンディは一粒で三歳若返る。パパの手紙には五粒食べれば、私の理想の年齢になるということなので割合は三対二。あとは計算をすればいいだけなのだけれど、私って今、幾つになるだろう。なんか算数の問題みたいで楽しい。おお、そうか。なりたい年齢から逆算していけば私の年齢って割り出せるのよね。算数は得意な方じゃないけれど、この程度の問題なら簡単だ。
まずは私の年齢をXにして三対二の割合で五を足したり、三を引いたりすればいいわけだ。赤を三、青を二の割合で先に計算してみると……ああ駄目だ……これだと答は七になってしまう、私は七歳ではないし、七歳だとこのキャンディは服用出来ないようになっている。
ということは青を三、赤を二の割合というのが正解だろう。一応、念のために計算していくと X−3+5−3+5−3=16となって、これを解いていくと16+3−5+3−5+3=15ってことになる。完璧だ。答は「青が三、赤が二」というわけだ。
これで私は十六歳になれるのだけれど、十五歳の外面と十六歳の外面って違いがあるのかな……多分、違いなんてないだろう。でも、まあ折角、パパが開発してくれたんだし……なんて思っていると日付が変わった。そのタイミングで、私のスマホに友達が誕生日おめでとうのメッセージを送ってきてくれた。ありがとう、みんな。今、この瞬間から私は十六歳なんだ。
あ……皆から祝福されて気分がよくなっていた私はパパからの贈り物がこの瞬間に無駄になってしまったことに気が付く。
ってことで正解は、赤のキャンディと青のキャンディ、食べなくてもあと数分で自然と十六歳になる。よって答は0。
パパ、来年はもっときちんとしたプレゼントをください。