「ある沈黙からの脱出」開催に寄せてーSCRAP代表 加藤隆生ー
公開日:2020/05/27
あれはちょうど一か月前の2020年4月13日のことだった。
「ある沈黙からの脱出」というタイトルの企画書を作った。
7都府県にコロナウィルスに対しての緊急事態宣言がでた6日後だった。
2月下旬から営業を自粛するかどうかという選択を迫られ続けてきた。
僕は断じてやり続けるべきだと言い続けた。
僕らはなんとなくエンタメを作ってきたんじゃない。
それは世界の隙間にそっと入り込み、内側から優しい毒を注入し、そしてその景色を変えてしまうためのものなのだ。
金儲けの道具ではない。
僕らは歩みを止めてしまったら、いったい誰がその隙間を埋めるのか。
そして隙間が埋まらないゆえにどれほどの悲しみが生まれるのか。
それでも世界の情勢はどんどん変わっていき、店舗のスタッフは疲れ果て、都や国からの要請は日増しに強くなり、3月26日から僕らは店舗の休業を決めた。
10年ぶりにリアル脱出ゲームが一切行われない夜がやってきたときに、僕はあまりに悲しくて、自分がとんでもない間違いをしてしまったと思った。
止めるべきではなかった。
どんな辛酸を舐めたとしても、営業を続けるべきだった。
そうでないと、もっとたくさんの悲しみを世界中にまき散らしてしまう。
僕らこそが希望にならなくてはならなかったのに。
何年もかけてやっと灯した明かりを自分の息で消してしまったような気持だった。
今振り返ればあの時の僕の決定は間違っていなかったことがわかる。
当然休業すべきだったし、日本中がそうしている中僕らだけが傲慢に営業を続けるなんてできるはずない。
もし無理をして営業を続けていればさらし首のように報道され、たくさんのスタッフが傷ついただろう。
あとべつに僕らは世界の希望でもなんでもない。ただそのつもりでエンタメを作ってきただけだ。
でもその時の僕にはそれがわからなかった。
それからしばらく僕は悲観に暮れてなにも思いつかなかった。
ただ悲しみに身を窶していた。
あの時何をしていたのかあまり覚えていない。
やっと記憶が戻ってくるのは休業を決めた二週間後の4月13日に「ある沈黙からの脱出」という企画書を書いたときだ。
その、企画書の一行目には「飛沫の飛ばないリアル脱出ゲーム」と書かれている。
やっと現状を受け入れて新しい企画に立ち向かうつもりになったのは、新型コロナウイルスが騒がれ出してから一か月以上たってからのことだった。
その企画書を書いてから今日で一か月。
とんでもないスピードでプロジェクトを進めてきた。
いくつもの挑戦をしてきた。
このゲームは沈黙の中で行われる。
そして言語もない。
ゲームが始まったらそこからは数字以外の文字は出てこない。
音が失われた世界で「音が失われたからこそ豊かな世界」を作ろうと思った。
音や言語が失われた世界でこそ光り輝くものってなんだろうと考え続けた。
そしていくつかの答えにたどり着いたように思う。
このゲームを届けられることを本当にうれしく思うし誇らしく思う。
これこそが今必要なゲームであると胸を張って言える。
4月13日に僕が書いた企画書の最後にはこう書いている。
「これは何かが失われた世界で、
何が大切なのかを見つめなおすリアル脱出ゲームだ」
まさしくそうなったと思う。
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リアル脱出ゲーム「ある沈黙からの脱出」
ーその部屋に入った瞬間 音が奪われたー
イベント詳細&チケット購入は下記イベント特設サイトをご確認ください。
https://realdgame.jp/silence