Mystery for You いつか夢見たサーカスへ
サーカスの開催地は「うたかた公園」。
さっそく僕はリュックサックに荷物を詰め込む。
会場は少し離れているから電車賃も持っていかないと…。
薄っぺらい財布をぎゅっと握る。
僕のお小遣いは、兄から渡されている。
高校生にしては少ない額だけど、文句は言えない。
僕は知っている。
本当は両親が残してくれたお金がもう残り少ないってこと。
兄が一生懸命かき集めたお金の中から、僕にお小遣いを渡してくれていること。
それを兄が、僕に知られまいとしていること。
だから僕は、「やっぱり大学には行かない」って兄に言った。
本当はずっと行きたかった大学。合格して本当に嬉しかった。
だけど、奨学金を利用しても間に合わないくらい学費が高いんだ。
僕が大学に行かずすぐに働き始めれば、兄と2人でそれなりに豊かな暮らしができる。
そう兄に伝えたら、大喧嘩になった。
兄は行きたいところに行けと言うが、それが現実的じゃないから諦めようとしているんじゃないか。
思い出したらまた腹が立ってきたな…。
リュックサックの蓋を閉じて、僕は家を飛び出した。
辿り着いたサーカスの会場は、開演を心待ちにする人々で騒がしい。
少なくとも、テントの周りに兄はいないようだ。
いるとしたら、中だろうか?
テントの入り口付近を歩いていると、係員に声をかけられた。
「お客様、チケットはお持ちですか?」
「えっ、あ、いや、持ってないです…」
「では、チケットの種類をお選びください」
係員の持つ、チケットメニューを見る。
え…!? 1番安くても5,000円…!?
サーカスってそんなに高いのか!知らなかった。
「す、すみません!もう少し考えます!」
慌てて係員から離れ、財布の中身を確認する。
残金は3560円…。これじゃあ入れないな。
そもそも、兄がいなくなったのは2週間も前。
2週間前にサーカスに来ていたとしたらもうすでにここにはいないのではないか?
だめだ、空回りしている気がしてきた。
諦めて帰ろうとしたところ、とあるポスターを見つけた。
「周遊謎解きキャンペーン500円!」
どうやら、テントの周りの情報を使って謎を解き明かすゲームをやっているらしい。
参加費は500円で、クリアすると入場料半額!
これをクリアすれば今の僕でもテントに入れる。
入ったところで、兄がいる可能性は低いかもしれない。
でも、せっかくここまで来たのだから僕は500円を払って謎解きゲームに挑戦することにした。