Mystery for You 私が運命の人に出会うまで 【高橋君との恋愛の話】
【恋愛の話】
「恋愛の話も聞いても良い?」
「恋愛、ですか…? あ、あのもしかして気付かれました…?」
「え、なになに?」
「いや、あの実は、今日はこの話をしたいなと思ってて… これまで親しい女性とかいなかったから…」
「え… うん?」
「あの、初対面の人にいきなりこんなこと言うのも失礼かもしれないんですが…」
そう言うと、高橋君は少し顔を赤らめる。
え、これはもしかして、そういうこと!?
「その…年上の女性目線で、恋愛相談に乗ってほしいんです…!」
…ん?
「あの、実はさっき話した田中先輩にずっと片想いしてて、今度の誕生日に思い切って告白しようかと思ってるんです… 会社の後輩からそういうのって、無しですかね?」
そう言って、キラキラした目ですがるようにこちらを見てくる。
チワワのようなその姿に思わず、「任せて! その恋、絶対叶えよう」と応え、近くのファミレスに移動し、そのまま彼の恋愛相談に乗ることとなった。
高橋君の純粋な恋愛トークにドリンクバーが進み、思っていた展開とは違ったけど、これはこれで楽しい時間を過ごすことができた。
「ありがとうございました! いちごさん… いや、師匠! 僕、頑張ります!」
ファミレスでの相談会を終えると、高橋君はブンブンと両手を振ってまぶしい笑顔で帰って行った。
何だか良いことをした気分だ。
気分良く帰り道を歩いていると、薄暗い路地に差しかかる。
そのとき。
シーンとした空間に、「パシャリ」と異質なカメラのシャッター音が聞こえた。
そして感じるじっとりとした視線。
思わず歩みを早めると、後ろから足音が迫ってくるのがわかった。
鼓動が早くなり、握った手がじんわりと汗ばむ。
誰かから、後をつけられている…?
いやだ… こわい… 後ろから聞こえる早足が徐々に小走りになり、あなたは夢中で夜道を走った。
後ろを振り返らず無我夢中で道を進みながら、ふとポケットにラッキーアイテムの防犯ブザーを入れていることを思い出した。
あなたは必死の思いでそのブザーのボタンを押した。
ピーーーーという甲高い音が周囲に鳴り響き、それまで後ろから聞こえていた足音は慌てたように遠ざかって行ったようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
そのとき、前から来た見知った人物に声をかけられる。
「あ… あのときの警察官さん」
それは、先日会った短髪の警察官だった。
気付けば、交番すぐ近くへと走ってきていたようだ。
張りつめていた緊張が緩み、思わずへたり込む。
「顔が真っ⻘ですよ… 中で座ってください。よかったら、ゆっくりでいいんで何があったか話してください」
そう、交番の中の椅子に案内される。
あなたはそこに座って、さっきまでファミレスにいたこと、そしてその後何者かにつけられ、走ってここまで逃げてきたことを震えながら必死に伝えた。
彼は優しい低音で、あなたの言葉ひとつひとつにゆっくりと相槌(あいづち)を打って聞いてくれる。
次第に落ち着いてきたあなたは、ふと交番の机の上に、雑誌が2冊置いてあることに気付く。 1冊はミツキにもらったものと同じもので、もう1冊は野球雑誌のようだ。
「あぁ、これ占いが当たるって評判の雑誌で、気になって買ってみたんですけど… いや、ほんとに当たっててびっくりしたなぁ」
「へぇ、そうなんですね。私も同じのを持ってますよ。あと、もう1冊は野球雑誌ですか…?」
「あ、そうです! 野球大好きなんですよ」
そう言って屈託なく笑った姿はどこか幼さが残り、見覚えがあるような気がした。
そしてそのまま警察官は、私が落ち着くまで交番で他愛のない雑談をして過ごしてくれた。
【⻘い封筒を開きましょう。】