Mystery for You Dream Game 正解
~エピローグ~
答えは……○だ!
ちきゅうはまるい。
「あー! 先に走り出したのはマチルダ選手! マチルダ選手が選んだのは○となりますので、ドブネズミ選手は×に向かうソリに乗ってください」
ここまで圧倒的な謎解き力を見せてきた小田切だが、最後の最後で苦戦しているようだ。なんとか先に選ぶことができた。
「へへ……実は俺、あがり症なんだよなあ。本気が出せればこんな……」
こんなところに来て、彼はあがり症で真価を発揮できなかったらしい。確かに、多くの観客に見られた状況で謎を解いていた。苦手なものなど何もなさそうな、屈強な彼にも弱点があったとは。
2人が乗り込んだソリが各レーンにセットされる。なるほど、このままパネルに突っ込むのか。
「さて、準備は良いでしょうか? それでは、ここで大発表!! 正解すれば無事にクリア、しかし失敗すると……」
「……!!」
下の池に大量のコブラが放たれていく。
「失敗すると、この猛毒コブラだらけのプールに落ちちゃいまーす!」
さらに歓声が沸く中、司会者が2人だけに聞こえるように話しかけてくる。
「あ、安心してくださいね。ここだけの話、毒のないコブラにしておいたので、噛まれても平気ですよ」
悠は寒気がした。毒がない……? 嘘だ、あれは猛毒を持つデスコブラ。南米の川などに生息し多くの命を奪ってきた最悪の生物だ。
この番組のために毒を抜いているのだろうか? いや、そんなことできるはずはない。もしかして、毒を持たない似た別のコブラと勘違いしているのだろうか?
もしあれがデスコブラなら、そこに落ちたらひとたまりもない。
どうする……? 正解は○のはず。このままソリに乗っていれば○にいける。しかしそれだと小田切先輩が落ちて……
「それでは、同時にスタートです! そのままパネルに突っ込んでください!!」
くっ、やるしかない……!
悠はソリに乗ったまま全体重を横に傾けた。
「!!」
一気にバランスは崩れ、横を走る小田切のソリとぶつかり、反動で彼のソリは○に向かう。
「うおおおおお……!!」
そして勢いを増した悠のソリは、そのまま×のパネルを突き破った。
「あーーっと、マチルダ選手のソリが○のレーンを外れて×のパネルを突き破ったー! しかし残念ながら、×は不正解だー!! ということで、今○にたどりつき見事勝利したのはドブネズミ選手! おめでとうございます!!」
大歓声があがり、小田切はぽかんとした顔であたりを見回している。
そしてソリごと池に落下した悠に、コブラが群がってくる。
これは……! やはりデスコブラ! 普通の人間が噛まれたら間違いなく重傷だ!
「ぐっ、うおおおおお」
大量のコブラに噛まれ、ぐったりする悠。
そこで観客1人が声をあげる。
「あれは、デスコブラだ!」
観客席が悲鳴の渦に飲まれる。
「いったんカメラ止めろ!」
「何してる! はやく救助だ!」
「救急車! 救急車呼べ!!」
スタッフがあわただしく動き回っているのがかすかに視界に入る。
「収録中止します! 益田さんとドブネズミ選手はこちらへ!」
青ざめた顔で今でも泣きそうな益田嬉依と、呆然としている小田切は別室へと案内された。
………
「いやー、興奮して体重をかけすぎちゃってさ、ははは」
後日、彼はケロッとした表情でそう言った。
あの後池からすくいあげられた悠だったが、もちろん毒の影響を受けておらず、せいぜい噛まれたアザが残っているくらいで、救助隊を驚かせた。念のため数日の入院を余儀なくされたが、今はもう病院を出るところだ。あいにくの雨の中の退院だ。
「もう、本当に心配したんだから!」
付き添いの若菜が話しかけてくる。
「あとちょっとで1,000万円だったのになあ、すまん若菜」
「お金なんていいの! お兄ちゃんが特殊体質の持ち主じゃなかったら、大変なことになってたんだからね!」
病院を出るとテレビ局の人たちが一斉にやってきた。
「あの、マチルダ選手ですか? このたびは大変失礼いたしました。どうやらスタッフの手違いで、無害なコブラと猛毒のデスコブラを間違えて仕入れてしまったようで…… 。あなたが毒の効かない特殊体質でなかったら、どうなっていたことか…… いえ、だからといってよかったわけではありません。このたびは本当に申し訳ございませんでした」
お偉いさんのような大人達と、司会をやっていた益田嬉依が謝罪に来たようだ。
「いえいえ、いいんですよ。ソリがレーンを外れちゃったのは僕のせいですし、まあ小田切さんが落ちなくて結果オーライじゃないですかね?」
それまで口をつぐんでいた益田嬉依が、口を開く。
「あの、町瑠田悠くんだよね?」
「あ……益田さん、俺のこと覚えてたんだね」
「ごめんね、最初は全然気付いてなかった。でもマチルダっていう名前と、毒が効かないって話を聞いて、間違いなくあの町瑠田くんだって思い出したの」
「えっ、お2人は知り合いでしたか?」
「うん。小学校の同級生」
「なんと……!」
話を聞いていた男性の1人が、何かをひらめいたかのように話を続ける。
「決して強要するわけではありませんが…… その毒の影響を受け付けない特殊体質、そしてあの緊張感の中で戦い抜いてきた力、そして何より益田さんのお知り合いということならば……芸能界に興味はありませんか?」
「へっ?」
突然の申し出に、すっとんきょうな声が出る。
「もしよければ、ぜひタレント活動してみてはいかがかなと。いろんな保証はさせていただきますので。あ、そして今回の賠償金ももちろんお支払いした上でです」
芸能人? タレント? そんなこと今まで一度も考えたことなかった。
「お兄ちゃん、いいじゃん! けっこうイケメンだし、こんな機会二度とないよっ」
「わ、若菜……」
「あの、もし町瑠田くんがタレントになってくれたら、私もたくさんお仕事一緒にしたいな!」
小さい頃親に捨てられどん底の生活をしていた自分が、きらびやかな世界に? 夢のようだと悠は思った。
「……ぜひ、前向きに検討しておきます」
「そうこなくっちゃ!」
「ありがとうございます。またご連絡させていただきますので、どうぞ、お大事になさってください。それでは、失礼いたします」
「……町瑠田くん、またね!」
そこにはまぎれもなく、何度もテレビやドラマで観てきた笑顔があった。
まったく、人生とはどうなるかわかったもんじゃないな。
益田たちと分かれ、足を進めると駆け付けた小田切の姿があった。
「よお。……お前、わざとミスったろ」
賢い彼だ、悠のミスがわざとであったことも、コブラの毒を代わりに受けようとしたのもすべてバレているらしい。
「いやあ、そんなことは」
「勝負はお前の勝ちだ。1,000万円、受け取れ」
「えっ!?」
「悔しいが、あの場面で俺は負けた。お前が俺を気遣って代わりに池に落ちなければ、俺は死んでたしな」
小田切はまっすぐとこちらを見つめてくる。
そして悠は……一息おいて、こう続けた。
「先輩、俺、今回のことでいろんな自信がつきました。んで、害獣駆除もそろそろやめることになりそうで……だから、そのお金は、先輩がもらってください。1,000万円なんて自分で稼いでみせますよ!」
「……そうか、お前ならできそうだな、ありがたく受け取っておくぜ! ただし……」
「ただし……?」
「もしまたナゾトキの大会があったら、お互い手加減はナシだぜ」
「……はい!」
颯爽(さっそう)ときびすを返して、小田切は去っていく。
雨はちょうど上がったところだ。
このナゾトキを妹が発見してくれなければ。
マンホールに気付かなければ。
自分が特殊な体質でなければ。
いろんな偶然が重なってここまでやってきた。
人生は、いつなにがあるかわからないな。
悠は、雨上がりのビル群を見上げながら、そっと太陽に手を伸ばした。
END
おめでとう! 見事に「Dream Game」を解き明かした!
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「Dream Game」
ディレクター/謎制作:時嶋コウ
制作進行:與座日向葵 津田麻里
謎監修:久留島隆史
デザイン:原耕造
校正:伊藤紘子 来栖由佳