十五夜タイムトラベル ストーリー
僕と小夜子は裏山の高台に向かった。
1991年4月10日。ムトーは商店街の「番号当て」で、一等イタリア旅行を当てた。
「ムトーはおそらく、当選番号を知っていたんだ。タイムトラベルしてね」
タイムトラベルの方法を知った高校生なら誰でも思いつきそうな行動だ。実際、ほんのイタズラだったのだろう。だがその旅行先で、彼の人生は大きく狂い始めたのだ。
「それを知ったからって、どうなるの?」
僕の後を走る小夜子が息を切らしながら聞いた。
「彼がイタリアに行かなければ、細菌兵器は作られない。だから、ムトーと同じことをやるんだ。つまり、ムトーより早く『番号当て』の当選番号を申し込むんだよ」
「1991年の4月10日にタイムトラベルするってこと!? でも、月の本で戻れるのは15年前までだよ」
僕たちは高台にたどり着いた。僕はカバンから2冊の月の本を取り出して言った。
「君が一人でループしていたときとは違うって言ったろ」
「そうか! 月の本が2冊あるんだ」
「そして鍵が1つとしおりが3枚。このアイテムで月の本の謎を解き直すと、30年前まで戻れるってことがわかったんだ。クリスタルは壊れちゃったけど、今日の裏山の高台にはブレスレットが落ちていた。条件は変わるけどこれでタイムトラベルできるはずだ」
「戻る日付は1991年の4月10日。でも……」
小夜子はうつむいた。
「月の本を使えるのは一人だけ。そして過去にしか戻れない。現在(ここ)には戻ってこれないよ……」
時刻はもうまもなく8時になる。
「やるしかないんだ。君はもう上限に達しているからタイムトラベルできない。僕が行くよ」
「本当にいいの? 知り合いは誰もいない時代に行ってしまって。真実を知ってる私とも30年も会えないんだよ?」
いいえ
「そうだよな……。やっぱり、僕には行けないよ。そんな勇気はない」
僕はうつむいた。
小夜子は僕を責めなかった。ただそばにいてくれた。
そのとき、遠くで爆発音のようなものが聞こえた。続いてサイレンの音があちこちで鳴り響き始める。
「始まるのね。あの未来が……」
小夜子が言った。僕たちは月明かりに照らされて青ざめた町を見下ろしていた。