Mystery for You わたしのひみつ エンディング
謎が解けた。わたしは、暗くて埃っぽい、無機質な空間にいる。ぼんやりとした灯りがともっている。それを静けさが覆っている。これまでのようにすぐに見えなくなると思っていたその風景は、いつまでも消えることはなかった……。そう、ここは……。
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5年前、近隣国との長く果てしない戦闘が起こった。凄惨を極める殺人が行われた。妻の里香と息子の悠太と私の3人は、十数人の人々とともに避難した。それは敵国の侵攻が進んできたことによる強制避難だった。避難先はここ、発電所の地下にあるコンクリート製のシェルターだ。
その時点では戦争が終われば家に戻れるはずだったが、私たちが避難してからほどなく、発電所付近に核爆弾が落とされたため、シェルター内での長い生活を余儀なくされた。幸い、シェルター内は人が過ごせる環境が保たれ、備蓄された食糧は十分にあった。恐らくこの先、避難民全員が一生をシェルター内で過ごせるぐらいの。しかしここは視界が狭く、埃っぽい。ほとんど音もしないこの場所で、私たちは生き抜かなくてはならない。
2年前、放送や外部との通信が途絶えた。滞留する放射性物質のために外に出ることができず、かといって一向に外部から助けも来ない。シェルター内は大きな喪失感に包まれた。
そのころから、里香の認知が歪んでしまった。毎日繰り返し、以前住んでいた家で日常を過ごしているように振る舞うのだ。
私や悠太が朝、どこへも出かけないのに「いってらっしゃい」と声をかけ、夕方になるまで私たちが存在しないものとして過ごしている。シェルター内に庭などないにもかかわらず、物干し竿に洗濯物を干し、草木に水やりをする振りをする。備蓄食品はほとんどそのまま食べられるのに、毎日丁寧に料理をするような素振りを見せる。そして決まった時間に、シェルター内にずっといた私と悠太に「おかえり」と呼びかける。恐らく彼女は、厳しい現実に抗うため、戦争が起こる前の日常を妄想し続けているのだろう。
もちろん、私や悠太も住んでいた家に戻りたい。陽の光を浴びたい。だが、現実的にそれは不可能だ。私たちは里香に目覚めてほしかった。過酷な環境であっても、現実を直視して、私たちと共に生きてほしかった。里香が妄想の世界に留ったままでは、気を使うばかりで、心を通わせることができない。何でも話し合える関係が家族だと私は思っているから。
そこで私と悠太は、彼女が目覚めるために、謎解き問題を作った。家族の大切な記憶と、何度か解けば現実を思い出すくらいの、ちょうどいい塩梅のキーワードを散りばめながら。里香は以前から謎解きが好きだった。荒療治かもしれないが、謎解きを行う中で出てくるキーワードが、きっと彼女の心の奥底に響くのではないか、という期待を込めて。
かくして今日、里香は私たちが作った謎をすんなりと解いてくれた。徐々に現実を認識しようとしているのか、時折「何でこんなことを」「もうやめて!」「私の幸せを壊さないでほしい」「わたしの日常を返して!」などと口にしていた。シェルター内で長期間過ごさざるを得ないことに対する憤りの気持ちは、私にも痛いほどよくわかる。
最後の赤い封筒の謎を解いて「シェルター」という答えを導き出したとき、彼女の意識がはっきりと現実に向いた気がした。憔悴しきった顔で、私と悠太の目をはっきりと見て、「……そっか、戦争が起こったんだよね」とつぶやいた。彼女は目覚めた。私と悠太は喜んだ。
ここ最近、見たことないほどにうれしそうな表情で、悠太が里香に話しかける。
「ママ、あの謎解き問題、僕も一緒に考えたんだよ。答えのキーワード、全部わかった?」
それを聞いた里香は目線を外し、なぜか恥ずかしそうにうつむいた。
あの家には戻れそうもないが、いつか助けが来るまで、これから3人、一緒に生きていこう。こんなひどい環境だけど、私たち家族は何でも話し合える、素敵な関係でいたいから。
fin.
見事に「わたしのひみつ」の謎を解き明かした!
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「わたしのひみつ」
ディレクター:大塚正美
謎制作:横森へるお(よだかのレコード)
制作進行:来栖由佳 富永絢子
謎監修:久留島隆史
デザイン:まついみずき
校正:伊藤紘子 森﨑理紗
「Mystery for You」
企画/制作:SCRAP
プロデューサー:きださおり 田口正也
サービス運用:鈴木ひかる 髙波由希帆 来栖由佳
広報:遠藤紅実
パッケージデザイン:加藤咲
システム:株式会社メタップスペイメント
エグゼクティブプロデューサー:飯田仁一郎
製作総指揮:加藤隆生